【内田雅也の追球】プロで成功するために ドラフト翌日、幸運で勝利をつかんだ阪神

[ 2020年10月28日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神4-1中日 ( 2020年10月27日    甲子園 )

<神・中22> 初回2死満塁、陽川は投飛に倒れる (撮影・平嶋 理子)                                                             
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 映画『2番目のキス』(2005年、監督・ファレリー兄弟)で、レッドソックス・ファンのボストンの高校数学教師ベン(ジミー・ファロン)はキャリアウーマンのリンジー(ドリュー・バリモア)を初デートでフェンウェイパークに誘う。帰り道、野球の魅力を語る。

 「野球で最高なのはインチキできないこと。世の中は運が通用する。ビジネス、音楽、アートはそうさ。人をだませるけど、野球は無理だ。(中略)数学みたいに規則的だ。勝つか負けるか、すべて明白だ」

 女優・岡田茉莉子を思い出した。阪神ファンだった。駆け出し記者のころ、自宅に電話すると、本人が電話口に出て、答えてくれた。何かの記事でこんな風に語っていた。「野球はホームランを打ったら誰が見てもホームラン。その選手の力をみんなが認めるのがうらやましいし、気持ちがいい。映画では、いくらいい芝居をしても、ホームランという人もいれば、二塁打という人もいる」

 確かに、大リーグやプロ野球は勝つか負けるかである。勝負の世界は厳しい。それでも、その勝負のなかで運が左右することがあるのもまた確かである。

 この夜の阪神は1―1同点の8回裏、相手の連続失策で得た2死二、三塁で近本光司の右翼前に上がった飛球を右翼手が捕れず、決勝三塁打となった。幸運だった。

 ベンは言う。「球を打てるか打てないか、それだけ。“運のいい日”はあっても“運だけの選手”はいない」

 示唆に富んだセリフである。プロ野球で成功するには才能も努力も、そして運も必要なのだ。

 前日26日にドラフト会議があった。新型コロナウイルス感染拡大の影響で今年は開幕が3カ月遅れた。近年、日本シリーズ前に開かれていたドラフトも異例のシーズン中開催となった。

 阪神は育成を含め9人の選手を指名した。狭きプロの門をくぐる選手たちに幸あれと願う。

 プロで成功するには、チャンスを物にすることである。打者ならばチャンスに強い「クラッチ・ヒッター」だ。ただ、野球の統計や分析などの論文が多く掲載されるウェブサイト『ベースボール・プロスペクタス』の創始者の1人、ジョー・シーハンは<重要な場面で大きな力を発揮する特別な力を持った選手などいない>と寄稿している。<大リーガーはみな、クラッチ・プレーヤーだと考えるのが正しい>。野球界の頂点に上り詰めた選手は全員がチャンスを物にしてきたわけだ。

 日本のプロ野球でも言える。ならば、この夜の阪神はどこかおかしかった。5回まで実に9残塁の拙攻。目立ったのは好機での凡飛だ。1回裏の大山悠輔、陽川尚将、2回裏のジェフリー・マルテはいずれも高めの球をとらえられなかった。8回裏の近本も凡飛だったが、幸運が待っていた。

 もう一度、ベンの言葉を書いておきたい。「運がいい日はあっても、運だけの選手はいない」

 この日はたまたま近本の一打に運がついた。もちろん、近本だけではない。プロは、運を引き寄せる陰の努力や姿勢が物を言う世界である。=敬称略=(編集委員)

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