【内田雅也の追球】「オレを使え」の気概――苦しい時に見た「はつらつさ」

[ 2019年7月26日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神0―6DeNA ( 2019年7月25日    甲子園 )

<神・D>6回1死一、三塁、宮崎の打球を好捕する上本(撮影・大森 寛明)
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 アメリカのロックバンド、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル(CCR)を率いたジョン・フォガティに『センターフィールド』がある。1985年、ビルボード全米1位となった名曲である。

 音楽を文字にするのは難しいが、大リーグの野球場で、近年は楽天や日本ハムの本拠地で試合前に聞こえてくる。

 「さあ、監督、オレを出してくれよ」と歌う。メロディが胸躍る感覚を高める。「準備は万端だぜ。おい監督、オレの出番だろ。今日はやってやるさ。オレを見ろよ」

 監督に出場をアピールする選手の思いが込められている。野球選手はこうありたい。

 そんな胸の高まりを、この夜の阪神・上本博紀に感じた。あまり喜怒哀楽を表に出さない選手だが、全身からみなぎる闘志が伝わってくる。

 8試合ぶりのスタメンに試合への渇望がにじみ出る。2日前(23日)の鳥谷敬にも見た、はつらつさがあった。

 3回表の守り。2カ月ぶり登板の先発、秋山拓巳が1点を失い、なお2死一、二塁のピンチにあった。上本は二塁に素早く入り、けん制球で走者ソトを刺した。

 かつて、野村克也が「内野手は打者以外で何とかアウトを取れないかと努める。これをチームプレーと呼ぶ」と話していた。上本は自身の出場を勇み、勝利に貢献しようと懸命だったのだ。

 もう一つ。6回表1死一、三塁で二塁右のゴロを飛び込み好捕、一塁で刺した。右前に抜けていれば、さらに傷口が広がっていた。打撃でも、4安打完封を許した今永昇太に対し、6回裏に右前打を放っている。

 上本に見えた「オレを出してくれよ」の姿勢こそ、今の阪神に欲しい心である。闘志や、試合への渇望である。

 はつらつさは、喜びからにじみ出るものなのだろう。喜びはまた、好プレーを生み出す。

 後に大リーガーとなる新庄剛志が阪神にいたころ、敗戦続きで試合に出るのがおっくうになったことがあった。正直な気持ちを同期入団でベンチ要員だった「アゴ吉」こと吉田浩に伝えると「おまえ、何言ってんだよ。スタメンだぞ!」。

 新庄から「ヒロシに叱られました」と聞いた。「試合に出る喜びは力になる。原点ですよね」

 打線は低調で今季10度目の零敗を喫した。チーム状況は良くない。相性の良かったDeNAに連敗し借金は5となった。正念場が訪れている。

 「童心」を書いた、前日と同じ主旨になった。やはり、大切な姿勢なのである。 =敬称略= (編集委員)

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