紅白司会アナウンサーの名調子 NHKラジオ「百年百話」で探究

[ 2022年12月19日 08:30 ]

NHKラジオ第2「アナウンサー百年百話」の公開収録で話す小松宏司アナウンサーと構成作家の寺坂直毅氏(C)NHK
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 【牧 元一の孤人焦点】かつてのNHK「紅白歌合戦」の曲紹介には司会のアナウンサーの名調子があった。例えば、1974年の第25回で山川静夫氏が、海援隊の「母に捧げるバラード」の前に語った言葉はこうだ。

 「わたくしは、この歌を最初に聴いた時の感動をいまだに忘れることができないのです」。ここで前奏がスタート。「もし音楽に、語り物と歌い物があるとすれば、これはまさしく現代の語り物、浄瑠璃ではないかと思います。現代の浄瑠璃、この歌を全国のお母さん方に聴いていただきたいと思います」。そして、武田鉄矢が「お母さん、いま僕は思っています」と語り始める。

 NHKラジオ第2「アナウンサー百年百話」(水曜前10・30)の今月のテーマは「紅白歌合戦」。21日放送の第3回、28日放送の第4回は、紅白に詳しい構成作家の寺坂直毅氏を公開収録に招き、アナウンサーの曲紹介に関して語り合った内容だ。

 制作を担当し、自らも出演した小松宏司アナウンサー(46)は山川氏の「母に捧げるバラード」紹介について「これは凄い。こんな紹介があると、聞く側はそういう歌なのだという準備ができる。寺坂さんによると、武田鉄矢さんは自分の曲の紹介に浄瑠璃という言葉を使ってくれたことをとても喜んでいたという。アナウンサーが事前に取材をしていたからこそ、こんな言葉が生まれたのではないか」と話す。

 過去の紅白では、司会者は本番を前に出場者と面談していた。その内容を、曲の紹介をする時の参考にすることができた。

 2004年の第55回では小野文恵アナウンサーが小林幸子の「雪椿」を紹介する際、こう語った。

 「今年、新潟県を襲った大災害。そこに40年前、ふるさとで自ら体験した新潟地震の思い出を重ねた歌手がいます。小林幸子さんです。悲しみに打ちのめされても、やがて人は立ち上がり、苦難を乗り越え、歩んでいく。そんなふるさとの人々の姿に小林幸子さんは、今日まで励まされ続けてきました。ふるさとに一日も早く明るい笑顔が戻ることを祈って、一日も早く心の春が訪れることを祈って。2004年12月31日、第55回NHK紅白歌合戦の歌い納めです。小林幸子さん、雪椿」

 番組ではほかに宮田輝さん、鈴木健二氏の曲紹介を取り上げる。

 小松アナは「この番組を作る前、紅白でアナウンサーは危機管理や時間管理など、いわゆる職業アナとしての役割を求められていると思っていた。しかし、先輩方の司会を聞くと、1年で最も良い場面を作り出そうとしている歌手の方々をステージに送り出す役割、背中を押す役割があるのだと思った。初出場の人なら緊張を和らげ、大御所の人なら気分を上げていただく。一本調子では愛がない。歌手の名前を言う時ですら、言い方ひとつでスイッチが入ったり気合が入ったりするだろう。奥深く、まだまだ分かり得ないところがある」と話す。

 今年の紅白で司会を務める桑子真帆アナウンサーが第4回に登場。第1回からの内容を聞いた上で、本番にかける意気込みを語る。

 昨年まで紅白アナウンサーチームのまとめ役を担当していた小松アナは「例年、31日は一つの会議室を借り切って、みんなで台本を読み、さらにできることはないかと考える。先輩たちがひとつひとつの言葉を生み出してきた伝統を引き継ぎ、司会のアナウンサーの言葉で歌手の方々の気持ちが上がるものになればいいと思う」と語った。

 年明けの1月8日には、この番組で取り上げた曲紹介をアーカイブ映像で振り返るコラボ番組「新・BS日本のうた 新春スペシャル」(NHK・BSプレミアムで午後7時30分から)も放送される。

 紅白でのアナウンサーの重要性を改めて考える年末年始になりそうだ。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。

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