アニメ研究部 GODZILLA 怪獣惑星

「樹木」をモチーフに「分家」したアニメ版「ゴジラ」…夢は「宗家」

[ 2017年11月16日 10:00 ]

劇場版「GODZILLA 怪獣惑星」でタッグを組んだ静野孔文(左)・瀬下寛之両監督
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 「ゴジラ」初のアニメーション映画「GODZILLA 怪獣惑星」が17日、公開される。特撮で何度も描かれてきた大怪獣が、これまでにない世界に立つ。瀬下寛之、静野孔文両監督が生み出した“新生ゴジラ”のキーワードは「樹木」、そして「自然」――。

 3DCGで表現されたゴジラは、実写と見間違うほどの迫力。ゴツゴツしていかにも硬そうな表皮には細く深い筋が幾つも走り、ささくれだっている。

 瀬下氏によると、モチーフは「樹木」。確かにその質感は樹皮のようだ。ただ、誰もが知る“怪獣王”が「樹木」というのは、やや意外だ。ひ弱な印象もある。「樹木」とした理由については「非常に長命で巨大な設定だから」と説明した。

 舞台は人類がゴジラとの戦いに敗れた近未来。宇宙に逃れ、20年の放浪を経た末に地球帰還を決断する。その際に“ワープ”のような時空間移動をしたため、地球では2万年の歳月が経過。それでもゴジラはまだ生きていたという設定だから、これまでにない、想像を絶する長寿ぶりだ。

 「我々の現実世界で最も長生きな生物は何だろうと考えると、樹木なんです。何千年という単位で、かつ、とてつもない質量と体積で生きている」と瀬下氏。例えば北米の一部に自生する杉の一種セコイアが約4000年、日本でも屋久杉が2000〜3000年の寿命とされる。瀬下氏は「長命の樹木は時に信仰の対象にもなり、畏(い)敬や尊敬を集める。だからこそ、我々の考えるゴジラに合う」とも話した。

 セコイアは高さ100メートルを超えるものもあるとされる。ならば、アニメ版ゴジラの大きさは?配給元の東宝によると「歴代最大だが、具体的な数字の公表はNG」。なお、昨年公開の「シン・ゴジラ」は過去最大と言われ118・5メートル。アニメ版はこれを上回ることになる。

 ただ、アニメ版ゴジラにとって、外観や身体的特徴より重要なものがあるのかもしれない。取材中、瀬下氏がゴジラを表現した際に使った言葉が気になった。それは「天災」「自然」「世界」だ。

 実は歴代作品でも格段に登場シーンの少ないゴジラかもしれない。序盤の回想シーンには登場するが、主人公の青年ハルオら人類の前に現れるのは、かなり後半だ。

 それでも存在感は強烈。これまでにないほど圧倒的な力があり、都市や自然を破壊し尽くす姿はさながら地球規模の大災害。帰還した人類が目にしたのは、2万年の時を経て文明が消滅し太古のように変わり果てた星。その中で王のように君臨し、体から発する物質で大気の組成や生態系まで変化させている。

 アニメ版ゴジラは、もはや“一怪獣”や“一キャラクター”といった範ちゅうを超えた“世界”や“設定”そのものかもしれない。

 「ゴジラ映画はゴジラが主役。でもゴジラが自然そのものになった瞬間、人間ドラマになった」と瀬下氏。そして、“ゴジラという世界”で描いたのは「信念や宗教、神などそれぞれが信じるものに突き動かされていく人間」だという。

 それは両監督がこだわったスタイルでもあり、静野氏も「主役のモンスターをひたすら追いかける形にはしたくなかった。カメラがハルオをずっと追いかけている今回のようなスタイルが好き」と振り返った。

 アニメ版は、ゴジラ映画における「分家」だと瀬下氏は言う。「親戚が増えることでワールドが広がり、もっと面白くなる。こんなゴジラがあってもいいのでは?」。その一方、「今作がアニメ版の“宗家”になってほしい」と、今後の可能性に大きな期待を寄せた。アニメ版がどれだけ大きな“樹木”に成長していくのか、今後の展開がより楽しみになってきた。

 ▼GODZILLA 怪獣惑星 20世紀最後の夏に謎の巨大生物「ゴジラ」が出現。人類は半世紀にわたる戦いを続けた末、2048年に宇宙船に乗りこみ、11・9光年離れた「くじら座タウ星e」に20年掛けてたどりついた。しかし、そこは予測以上に環境が地球と違い、人類は地球帰還を決断。その際、ワープのような時空間移動をしたため、地球では約2万年の歳月が経過。ゴジラを生態系の頂点とする世界に変わり果てていた。

 ◇瀬下 寛之(せした・ひろゆき)1967年、東京都生まれ。映画「河童」やテレビCM、ゲーム映像など、さまざまな分野のCG/VFX制作でCGディレクター/デザイナーとして従事。97年渡米、01年公開の映画「ファイナルファンタジー」にてアートディレクター。01年「ファイナルファンタジーX」、02年「同 XI」などのゲームムービー制作ではデザイナー/VFXスーパーバイザーを担当。07年には、松本人志監督作品「大日本人」、09年「しんぼる」でVFX監督を務めた。10年にポリゴン・ピクチュアズ入社。14年「シドニアの騎士」副監督、15年「シド ニアの騎士 第九惑星戦役」監督、15〜16年「亜人」総監督、17年「BLAME!」監督。

 ◇静野 孔文(しずの・こうぶん)1972年、東京都生まれ。2004年にテレビアニメ「名探偵コナン」の演出を手掛けた後、05年、米国で放送されたテレビアニメ「G.I. Joe SIGMA6」の総監督・監督に抜てきされ、活躍の場を北米に移す。07年「ヱヴァンゲリヲン 新劇場版:序」で演出協力、09年、オリジナル・ビデオ・アニメーション「真救世主伝説 北斗の拳:第四部 トキ伝」で監督を務めたほか、11年には劇場版「名探偵コナン 沈黙の15分」の監督に。同作で日本アカデミー賞優秀アニメーション賞に選出されると、以降、17年まで連続で同シリーズの監督を担当、17年の「から紅の恋歌」ではシリーズの歴代最高興行収入が更新された。

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