【内田雅也の追球】狂わされた「心理」―松坂の老練に敗れた阪神

[ 2019年7月17日 12:21 ]

セ・リーグ   阪神2―3中日 ( 2019年7月16日    ナゴヤドーム )

<中・神>5回、大山は中飛に倒れる(撮影・大森 寛明)
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 「ピンク・ティー」とは桃色のお茶ではない。アメリカの俗語で、ご婦人が集う、気取った茶話会を指していう。

 「野球はピンク・ティーなんかじゃない。腰抜けは去れ」と語ったのはタイ・カッブである。

 大リーグ草創期の1900―20年代に活躍し、歴代2位の通算4189安打。ベーブ・ルースらとともに最初にアメリカ野球殿堂入りした。激しい闘志と荒々しいプレーが評判だった。

 だが粗暴な態度と歯に衣(きぬ)着せぬ発言で「史上最も嫌われた男」とも呼ばれる。映画『タイ・カップ』(1994年・米=タイトルは“カップ”と表記)で荒れた晩年の生活が描かれている。一日中バーボンの瓶を手放さず、気に食わぬと護身用の拳銃をぶっ放した。

 家族とも疎遠になった。がんに冒され、アトランタの病院で独り、息を引き取った。それが1961年のきょう、17日である。74歳だった。

 映画のエンドロールでいくつかの名語録が流れる。なかに「打撃は心理戦だ」とあった。投手との駆け引き、読み合いを指している。

 だとすれば、この夜の阪神は今季初登板だった38歳のベテラン、松坂大輔との心理戦に敗れたと言えるだろう。

 顕著だったのはチャンス(松坂にはピンチのはず)での打席だ。特に3回表2死満塁での陽川尚将(見逃し三振)、5回表2死二、三塁での大山悠輔(中飛)である。

 陽川は初球、胸元をシュートで突かれた。続く外角直球もファウル。追い込まれてから、外角スライダーはボールで見送り。同じコースの外角「バックドア」シュートは反対にストライクになって、手が出なかった。

 大山の方はカッター、スライダーで外角を攻められ、6球目で初めてきた内角直球に詰まった。

 2人の配球を振り返れば、陽川は初球に、大山は最後に、それぞれ1球だけの内角球にやられた格好だった。まさに心理戦である。

 何も陽川や大山がカッブの言う「腰抜け」だというのではない。古今東西、投手と打者は内角球を巡り、心理的に闘ってきた。

 野球記者、レナード・コペットの『新・考えるファンのためのベースボールガイド』第1章は「恐怖」で始まる。<恐怖とは打撃の根本的な要素である>。

 矢島裕紀彦著『打つ――掛布雅之の野球花伝書』(小学館文庫)も「恐怖」に多くを割いている。

 100年前のカッブの言葉にある。「打者の資質で最も大切なのは打席で怖がらないことだ。当てられるのを恐れなければ、いい打者になれる」

 松坂が5回で降板した後、救援4投手に対し、阪神打線は無安打で、好機すらつくれなかった。松坂との「心理戦」で狂わされてしまったのだろう。=敬称略=(編集委員)

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