羽生九段“幻惑”雁木囲い リスク覚悟の選択…再びの「隠し玉」で藤井王将揺さぶる 両者互角で中盤戦へ

[ 2023年1月29日 05:00 ]

膝を立て髪をかき上げながら熟考する羽生九段
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 将棋の第72期ALSOK杯王将戦(スポーツニッポン新聞社、毎日新聞社主催)7番勝負第3局は28日、金沢市の金沢東急ホテルで第1日を行い、羽生善治九段(52)が意表を突く雁木(がんぎ)囲いを実施。後手ながら藤井聡太王将(20)=竜王、王位、叡王、棋聖含む5冠=を揺さぶる変化球を投げ込んだ。羽生は50手目を封じて第1日が終了。対局はきょう29日午前9時に再開する。

 何をやってくるのか、全く分からない。羽生の14手目△8四歩=第1図。これで囲いが雁木に確定する。藤井相手に11局目の対決で初の戦型を、このタイミングでぶつけるとは。しかも主導権を握りにくい後手番で。

 「序盤からかなり激しい局面になり、あの順をやらざるを得なかったんです」とスタート場面を回顧した羽生だが、そのコメントとは対照的に、一手一手の手つきには自信がみなぎっている。

 開局早々の4手目△4四歩で、藤井から投げかけられた角換わりを拒否。同時に振り飛車の含みを残す。藤井戦で飛車を振るとすれば20年7月4日の銀河戦本戦以来だ。緊迫の対局場。疑心暗鬼気味となった藤井の心中を見透かしたかのように、しばし態度を保留し、ようやく戦型を明らかにしたのがこの14手目だった。なんともしたたかな進行だ。

 振り駒で後手番となった第1局(8、9日=静岡県掛川市)では「一手損角換わり」をちゅうちょなく選択。白星にこそ結びつかなかったものの、藤井にたっぷりと汗をかかせた。第2局(21、22日=大阪府高槻市)では先手の利を生かし、持ち時間をふんだんに余しての会心譜。再び後手番となった今局も「隠し玉」を用意していた。

 懐の深すぎる永世7冠は、二度三度とうなずいてから3局連続の封じ手を選ぶ。「お互いに手の広い局面が続いて、なかなか先の見通しがつかない。未知の世界を手探りで指している段階です」と心境を明かしながらも、表情に極端な険しさはない。

 形勢としては、ほぼバランスを保ったまま指し掛けた。「なかなかちょっと、どういうことになるのか予想できませんねえ」と第2日を展望した羽生は、むしろ難解なねじり合いを楽しんでいる気配だ。封じ手直前には相手に角の打ち込むスペース、いわゆる「キズ」を差し出す驚きの一手も見せている。豊富な経験に裏打ちされた変幻自在の指し回し。持ち味を存分に発揮して、王者にまたも大汗をかかせた前半が終わった。 (我満 晴朗)

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