藤井王将、長考のち大長考 持ち時間3時間差も…反攻へ 森内九段驚き「私には指せない」一段銀△6一銀

[ 2023年2月10日 05:00 ]

第72期ALSOK杯王将戦7番勝負第4局第1日 ( 2023年2月9日    東京都立川市「SORANO HOTEL」 )

熟考する藤井王将(撮影・河野 光希)
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 藤井聡太王将から封じ手直前、2時間24分の大長考が飛び出した。自身の得意戦法・角換わり腰掛け銀で戦いを挑んできた羽生善治九段の攻めを正面から受け止めにいった第4局。62手目△6一銀(第2図)は升田幸三賞特別賞を受賞した20年棋聖戦での△3一銀を思わせる「一段銀」。羽生とは3時間8分の差がついたが、「守り」という藤井将棋のもう一つの魅力を表現している。

 対局場が入る、ホテルから望む富士山は闇に消えた。午後3時36分から始まった長考は2時間を超えた。封じ手時刻の午後6時になり、立会人の森内俊之九段(52)から「定刻になりました」と告げられて藤井は着手を決め、封じ手の意思を示した。

 「すでに展開によっては終盤戦というところで、変化も多いので長考になりました」

 2時間24分に及んだ考慮時間。詰みの局面まで読みを重ねた可能性すらありそうだ。藤井が経験した公式戦では最長、持ち時間8時間の王将戦7番勝負という条件はあった。

 一手損角換わりに相掛かり、雁木(がんぎ)と推移した戦型。角換わりの今回も羽生の戦型選択を受け入れた。相手の工夫を受け止めるには、対局中の熟慮が求められる。前期第2局、52手目△8八歩に自己最長2時間28分考えたのに続く長考。この時は勝利を収めている。

 今回は封じ手の4手前、62手目△6一銀でも57分考えた。羽生の前手▲7三角で、6二への利きを1枚足す必要ができた。駒台から歩で代用してもいいはずなのにより値打ちの高い銀を打った。

 64手目△2四同歩は当然の応手のため、62と66手目の2手に計3時間半。中盤の難所に惜しげもなく持ち時間を投入した。

 「よく打たれたと思う。私には指せない」。森内は新感覚への驚きを隠さない。6一に銀、7一に金、8一に飛車が並ぶ布陣。「力ずくで受け止めてしまおうとしています」と解説した。

 20年棋聖戦第2局。新手や絶妙手に贈られる将棋大賞の一部門、升田幸三賞特別賞を藤井は△3一銀で受賞した。あの受けの名手を連想させる、一段銀。△6一歩では攻めつぶされる手順があるという。△6一銀を既存の常識にとらわれない新たな藤井将棋の代名詞とできるだろうか。

 そして4局目にして初めて、全対局の3分の1と藤井が最も指し慣れた角換わりでの戦いを挑まれた。昼食休憩時、「腕が鳴るのでは?」と問われ、「そういうことはないです」と静かに笑った。第2日は一転、反攻に活路を見いだしたい。 (筒崎 嘉一)

 ≪封じ手は?≫
 ▼立会人森内俊之九段 △5二同銀。他に手が思いつかない。
 ▼副立会人佐々木大地七段 △5二同銀。必然の一手。
 ▼記録係斎藤光寿三段 △5二同銀。同王以下の変化が難しいため、断念して同銀になるのでは。

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