羽生九段、攻める!藤井王将の“十八番”あえて踏み込んだ 千日手回避&攻撃“誘い水”49手目7八王

[ 2023年2月10日 05:00 ]

対局場に向かう羽生九段(撮影・小海途 良幹)
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 将棋の第72期ALSOK杯王将戦(スポーツニッポン新聞社、毎日新聞社主催)7番勝負第4局は9日、東京都立川市のSORANO HOTELで第1日を行い、後手の藤井聡太王将(20)=竜王、王位、叡王、棋聖含む5冠=が66手目を封じて指し掛けた。先手の挑戦者・羽生善治九段(52)は4局目にして初の角換わり腰掛け銀を選択。藤井の得意戦型にあえて挑む姿勢を誇示した。第2日はう10日午前9時に再開する。

 藤井王将、どうぞかかってきなさい――羽生の心の声が響いてくる。

 今シリーズ2度目の先手番で初披露したのは古典的な「角換わり腰掛け銀」だった。「前例のある進行、いわゆる定跡ですね」と振り返る滑り出しは、テンポよく手が進む。だまし絵のように先後同型となって両者とも駒組みが完成。藤井が5四に腰掛けた銀を6三に引く動きを繰り返す間に、自王を8八へと入城させる。7八の金を6八に寄せ、すぐ戻す。金の反復横跳び。

 千日手か?だがその場合は羽生の後手番で指し直すため、打開が筋だ。迎えた49手目の▲7八王=第1図。千日手を回避する目的で手を変えただけではない。真意は藤井の攻撃を巧妙に呼び込む「誘い水」。これには正立会人の森内俊之九段(52)も「かなり珍しい手」とうなり声だ。

 ただでさえ角換わりは藤井の十八番。エース戦型と言っていい。勝利を目指すには相手の得意戦法を避けるのが勝負事の鉄則なのに、羽生は果敢にレッドゾーンへと踏み込んだ。「運命は勇者にほほ笑む」。自身の座右の銘そのままに。

 1勝2敗で迎えた第4局はシリーズの命運がかかる分岐点だ。敗れると藤井に王手をかけられる。1つの負けも許されないまま後半戦に突入しなければならない。そのためには先手番の今局は是が非でも勝利が必要だ。藤井は先手番こそ24連勝中だが、後手番では今期16勝8敗と勝率を落としている。「勝率が下がっていると言っても6割以上でしょ?それはなんかおかしいですよね」と笑う羽生だが、ここは先手の利を生かして2勝目を奪うチャンスでもある。

 あえて相手の懐に飛び込む戦術を選んだだけに、もう引くわけにはいかない。▲5二桂成と王手をかけ、144分に及ぶ大迫力長考の末、封じ手に踏み切った藤井が差し出す封筒に赤ペンで署名を入れた羽生は「銀か王のどちらかで取るかの2択だと思います。その封じ手によって明日(第2日)の展開が変わってきます」と達観の弁だ。どちらの手でも応手はすでに頭脳の中に決められているのだろう。自宅で飼育するウサギにあやかって、羽織や草履にウサギ模様を織り込む遊び心も抱きながら挑む今シリーズ。果たして運命は勇者にほほ笑むか。 (我満 晴朗)

 ◆角換わり 開局早々に角を交換し、持ち駒として温存しながら駒組みを進める戦型で、銀を攻めに活用する「腰掛け銀」「早繰り銀」「棒銀」が代表的。駒台の角は相手の「キズ」と呼ばれる弱点に打ち込み、攻撃を優位に進めるため使用するが、当然相手も「キズ」を作らないよう工夫するため、トップ棋士同士の対局では膠着(こうちゃく)状態になり、千日手になるケースも多い。派生型としては後手番の「一手損角換わり」があり、羽生は第1局で採用した。 

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