舟木一夫 60周年記念コンサート 「歌がどれだけ好きか分かった」

[ 2022年1月20日 07:30 ]

芸能生活60周年記念コンサートで歌う舟木一夫
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 【牧 元一の孤人焦点】歌手の舟木一夫(77)が19日、東京・丸の内の東京国際フォーラム・ホールAで、芸能生活60周年記念コンサートを行った。

 2部構成で、叙情歌を集めた1部では後半に「夕笛」(1967年)、「絶唱」(66年)を歌唱。いずれも、詩人の西條八十(1892年~1970年)が作詞した楽曲。西條は、霧島昇「誰か故郷を想わざる」(40年)や藤山一郎「青い山脈」(49年)、村田英雄「王将」(61年)などの歌詞や、森村誠一氏の推理小説「人間の証明」(75年)に引用された詩「ぼくの帽子」(22年)などで知られ、「夕笛」「絶唱」は舟木の歌手活動の長さを象徴する曲だ。

 2部では組曲「その人は昔~東京の空の下で」(66年)を披露。北海道で出会った男女が希望を求めて上京し挫折する物語を、数々の歌と語りで描く大作で、約60分のオリジナルを短縮したものの、それでも所要時間は40分以上。歌い切った舟木は「もう帰って寝ます。バカなことをやっちまったな」と苦笑いを見せた。

 しかし、そこからがヤマ場。上着を脱ぎ捨て、人気時代劇シリーズ「銭形平次」(66年~)の主題歌を歌い始めると、客席の約4000人は立ち上がり手拍子して大盛り上がり。舟木も「年齢を気にしていたら、やっていられない。ずっと赤い夕陽が校舎を染めている」と、大ヒットのデビュー曲「高校三年生」(63年)の歌詞を引用して語り、さらに観客をあおった。

 その「高校三年生」は2部の終盤とアンコールで、2回にわたって歌唱。年輪を重ねた声で、デビュー当時の躍動感、透明感を再現してみせた。最後は「60年、ありがとうございます。あと何年歌えるか分からないけれど、お付き合い下さい」とあいさつ。計2時間30分にわたり計30曲を歌い続けた後とは思えない軽やかな足取りで中央の階段を駆け上がり、ステージから去った。

 終演後は控室で取材に対応。40分以上に及んだ組曲「その人は昔~東京の空の下で」について「どこまで歌えるかやってみようかという感じだった。こんな長い曲をコンサートでやるのは邪道だが、60周年なので、青春の中の一つ、印象深い足跡の一つとして入れたいと思った」と説明。「高校三年生」の2回目の歌唱が1回目より力強かったことに関して「これでやっと終わりだと思ったから」と笑いつつ、「お客さんのテンションに近づいた。それがライブのだいごみ。受け止めてくれなければ、あの温度は出せない」と、ファンの熱量に応じた熱唱だったことを強調した。

 60周年については「70歳くらいになって、やっと、歌がどれだけ好きか分かった。歌に寄り添ってもらうのは大変。歌に、げたを預ける。こちらから突っ込んでいかない。そういうことは、10年や20年では無理。記者の仕事もそうでしょう?」と逆にこちらに語りかけた。

 歌の達人。いや、歌の仙人。さらなる進化の気配さえ感じさせるコンサートとなった。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。

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2022年1月20日のニュース