「鎌倉殿の13人」表面張力MAX…実朝&公暁“決裂”の裏側 柿澤勇人が台本にない涙→寛一郎が怒り爆発

[ 2022年11月20日 20:45 ]

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第44話。手を取り合う源実朝(柿澤勇人・右)と公暁(寛一郎)だったが…(C)NHK
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 俳優の小栗旬(39)が主演を務めるNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(日曜後8・00)は20日、第44回が放送され、ついに建保7年(1219年)1月27日、雪が降り積もる“運命の日”を迎えた。3代鎌倉殿・源実朝(柿澤勇人)の右大臣拝賀式の直前、実朝と4代鎌倉殿の座を狙う公暁(寛一郎)の対話は物別れに。同回を演出した保坂慶太監督に撮影の舞台裏を聞いた。

 <※以下、ネタバレ有>

 稀代の喜劇作家にして群像劇の名手・三谷幸喜氏が脚本を手掛ける大河ドラマ61作目。タイトルの「鎌倉殿」とは、鎌倉幕府将軍のこと。主人公は鎌倉幕府2代執権・北条義時。鎌倉幕府初代将軍・源頼朝にすべてを学び、武士の世を盤石にした男。野心とは無縁だった若者は、いかにして武士の頂点に上り詰めたのか。物語は、江戸幕府まで続く強固な武家政権樹立を決定づけた義時と朝廷の決戦「承久の乱」へと向かう。三谷氏は2004年「新選組!」、16年「真田丸」に続く6年ぶり3作目の大河脚本。小栗は大河出演8作目にして初主演に挑んだ。

 第44回は「審判の日」。後鳥羽上皇(尾上松也)の計らいにより、右大臣に叙されることとなった3代鎌倉殿・源実朝(柿澤)。政子(小池栄子)が愛息の栄達を喜ぶ中、鎌倉殿への野心に燃える公暁(寛一郎)は三浦義村(山本耕史)の元を訪れ、鶴岡八幡宮で執り行われる拝賀式について密談を交わす…という展開。

 「明日、実朝を討つ」――。公暁は義村に襲撃計画を明かした。

 建保7年(1219年)1月27日。北条義時(小栗旬)、公暁、義村、源仲章(生田斗真)、それぞれの思惑が入り乱れる。

 公暁が自分を憎む理由は何なのか。2代鎌倉殿にして兄の源頼家(金子大地)の死の経緯について、実朝は三善康信(小林隆)に問う。

 「確かに私は、兄上の跡を継いで鎌倉殿になった。公暁が恨みに思うのも分からないではない。しかし、どうにもおかしいのだ。幼くして仏門に入った公暁が、なぜそこまで鎌倉殿にこだわるのか。あの頃のことを知っている者は、数少ない。本当は、何があった。私が問うておるのだ、善信」

 その真相を知ると、母・政子を責めた。「なぜ黙っていたのですか」「公暁が、私を恨むのは、当たり前です」「公暁を蔑ろにして、なぜ平気なのですか!」「兄上がそんなに憎いのですか。私と同じ、自分の腹を痛めて産んだ子ではないのですか」「私は、母上が分からない。あなたという人が」と涙が止まらない。政子は膝から崩れ落ちた。

 そして単身、公暁を訪ね、涙ながらに許しを請うた。

 公暁「私はただ、父の無念を晴らしたい。それだけです。あなたが憎いのではない。父を殺し、あなたを担ぎ上げた北条が許せないのです」

 実朝「ならば、我らで力を合わせようではないか。父上がおつくりになったこの鎌倉を、我ら源氏の手に取り戻す」

 第44回の演出プランについて、保坂監督は「第45回とセットの回。公暁の計画実行までの緊張感をどれだけ高められるかが勝負だと思いました。どの回もそうなんですが、三谷さんの脚本は登場人物それぞれのストーリーライン(物語の流れ)が同時に走っているので、それをどうやって1つのうねりにしていくか、毎回、試行錯誤してきました。その点からすれば、今回はキャラクターたちがどんな思いを抱えて(暗殺計画の)“現場”に集まってくるのかを大切にしました」と説明。

 実朝を軸にした対話のシーンが次々と繰り広げられたが「2人が常に相対しているんじゃなく、その場面の意味合いに沿った動きをつけました。分かりやすいところで言うと、実朝と三善康信のシーンは実朝が探りを入れる感じが出るように、三善を中心にグルっと回りながら話をしてもらいました。この回に限らず、そのシーンの意味合いがより伝わるように、単に座りっぱなしじゃなく動きをつけていこうと、チーフの吉田(照幸監督)の下、初回からずっと心掛けてきたので、今回もあらためて意識して取り組んだという感じです」と振り返った。

 そして、ついに実朝と公暁のダイアローグ。ドラマの時代考証(3人)の一翼を担う東京大学史料編纂所助教・木下竜馬氏によると、実朝と公暁が2人きりで対話した記録は史書「吾妻鏡」などには残っていない。一方、「もし2人だけの密談があったとしても、よっぽどの事情がないと史料には残らないでしょう」とも指摘。実朝は公暁を「猶子」(親子関係を結んだ子。一般的には相続に関与しないため、養子と区別される)としており、もちろん2人に面識はある。

 ストーリー上は「実朝と政子の対話→実朝と公暁の対話」だが、撮影順は逆。大河ドラマの収録は演者やセットのスケジュールにより、順撮りとは限らない。

 それでも、柿澤が台本のト書きにはなかった涙を流して謝る熱量あふれる芝居。保坂監督は「まず柿澤さんが場の空気をつくってくれたのが、非常に大きかったと思います。それを受けて、寛一郎さんが爆発してくれました」とジャズのような2人のセッションを明かした。

 「あなたに、私の気持ちなど分かるはずがない。幼い頃から周りから持ち上げられ、何一つ不自由せず暮らしてきたあなたに、志半ばで殺された父や、日陰でひっそりと生きてきた、母の悔しさが分かるはずがない!」

 「公暁を突き動かす思いが凝縮された、なおかつ第45回の計画実行に向けたトリガーになっている肝の台詞ですよね。1つ前の台詞に『怒りに火がつく』というト書きがあるんですが、そこから少しずつ高まっていって本音があふれ出てしまう。表面張力が限界を迎える様は、収録していてゾクゾクしました。お二人とも、この対話の重要さは十二分に分かっていますから、僕からお願いしたことは特にありません。実朝と公暁が折角お互いの心情を初めて吐露して分かり合えたと思ったのに、結局はすれ違ってしまう悲劇を、お二人がこの1シーンで見事に体現してくれました。想像を超えるお二人の台詞回しに、感謝しかありません」

 次回第45回は「八幡宮の階段」(11月27日)。ついに鎌倉最大のミステリーにして鎌倉最大の悲劇「実朝暗殺計画」が描かれる。

 ◇保坂 慶太(ほさか・けいた)2007年、NHK入局。最初の赴任地は新潟局。12年からドラマ部。大河ドラマに携わるのは14年「軍師官兵衛」(助監督)、16年「真田丸」(演出・3話分)に続いて3作目。「鎌倉殿の13人」は第6回「悪い知らせ」(2月13日)、第9回「決戦前夜」(3月6日)、第15回「足固めの儀式」(4月17日)、第20「帰ってきた義経」(5月22日)、第26回「悲しむ前に」(7月3日)、第31回「諦めの悪い男」(8月14日)、第35回「苦い盃」(9月11日)、第39回「穏やかな一日」(10月16日)、第44回「審判の日」(11月20日)を担当した。NHKが新たに立ち上げた脚本開発に特化したチーム「WDR(Writers’Development Room)プロジェクト」の代表も務める。

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