北村有起哉“変幻自在”癖強い役から硬派まで…どんな色にも染まる 原点に日本映画界巨匠の教え

[ 2022年11月20日 08:30 ]

インタビューに応じる北村有起哉 (撮影・白鳥 佳樹)
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 【俺の顔】癖の強い役から硬派な役まで自在に演じる俳優の北村有起哉(48)。高い演技力と独特の存在感でさまざまな作品を彩っている。人間くささあふれる個性派俳優。その原点には日本映画界の巨匠の教えがあった。 (望月 清香)

 1メートル80の細身な体にシャープな輪郭。特徴的な切れ長の目からは知的な雰囲気と色気が漂う。「チャームポイントか…。ないですよ。全然自信ないですもん。一筆書きで書けそうな顔が個性かな」。困ったように笑みを浮かべると、目尻にできたしわから優しさがにじみ出た。目つきひとつで、表情ががらっと変わる。

 父は2007年に80歳で亡くなった文学座の名優・北村和夫氏。ただ「あまり会話のない父親と息子だった。演劇に触れる機会もなかった」。転機が訪れたのは、高校3年生の文化祭。演出、脚本を手掛け、同級生と「仁義なき戦い」を上演したところ、クラスの女子4人から告白された。「それまで全くモテなかったので友達の間で大激震が走った。モテたくてやったわけじゃなくて、夢中になってやった結果、ご褒美を頂いた。つまり、まあまあ向いているっていうことなんじゃないか」

 高校卒業後、俳優になることを決意。「30歳までにこの道で食っていく」と心に決め、アルバイトをしながら養成所や専門学校に通った。

 俳優としての心構えを教えてくれたのは、「楢山節考」などで知られる日本映画界の巨匠・今村昌平監督だ。24歳の時、今村監督の「カンゾー先生」でデビュー。父の小学校からの親友で、父は今村作品の常連として多数の作品に出演していたが、特別扱いはなかった。

 ロケ地の岡山入りすると、オーディションで役を勝ち取ったはずが、馬車馬のように裏方仕事をさせられた。「重い照明機材を運んだり、撮影は8月だけど映画の設定は4月でセミが鳴いていたら駄目だから“セミを全部捕まえてこい”って言われたりもした。もうやってらんねえよってなった」。今村監督はそれを見逃さず、声を掛けた。「お前の代わりなんかいくらでもいる。帰りなさい」

 「背中に冷たい水滴がぴちょんと垂れるような、ぞっとする声でした」。監督の死後に知ったことだが、監督が全スタッフに「北村和夫の息子が来るから、こき使ってやってくれ」と指示していたという。北村の役者としての才能を見込んでの愛のムチだった。「映画って、こうやって作っているんだぞというのを教えてくれた。役者が涼しい控室にいる間に、スタッフたちは汗まみれになっているのを身をもって体験した。宝物のような経験をしましたね」

 チャンスに貪欲になった。知り合いが出演している舞台の打ち上げに参加しては、演出家やプロデューサーに自ら顔を売り込んだ。「もう手当たり次第。仕事が来ないのをマネジャーのせいにはできないですから」。出演作を見た演出家から「次はうちの作品に」という声が広がり、20代後半から一気に出演作が増えた。
 どんな作品にもフレキシブルに対応した。「それはできないとか恥ずかしいとかなかった。親父の影響かもしれないけど、声の出し方とか台本の読み方とか基本があれば、それを応用して芝居は面白くなる。どんな演出家の人でも合わせられたし、楽しめた」。鴻上尚史氏、栗山民也氏ら名だたる演出家たちと作品をともにした経験が、どんな色にも染まる変幻自在の役者をつくり上げていった。
 バイプレーヤーとして確固たる地位を築いたが、最近は主演の仕事も増えてきた。12月16日公開の「終末の探偵」では、自身2度目の映画主演を果たす。演じるのは癖のある探偵。無精ひげを生やし、けだるそうな目でタバコをくわえる姿はだらしないが、情にもろく、困っている人を見捨て切れない。北村は表情を大きく変化させることなく、しわと目つきで感情の揺れを表現する。

 役者の醍醐味(だいごみ)を「毎回違う話が来て違う役が来ること」と語る。常に新しい役との出合いであるため、20年以上のキャリアを積んだ今もワクワクが止まらない。「これからさらに、いろんな方から頂いたものがブレンドされていくと思います」。まだまだ見たことがない表情を見せてくれそうだ。

 ◇北村 有起哉(きたむら・ゆきや)1974年(昭49)4月29日生まれ、東京都出身の48歳。98年に舞台「春のめざめ」と映画「カンゾー先生」でデビュー。映画「新聞記者」「すばらしき世界」、TBS「アンナチュラル」など出演作多数。16年には「太陽の蓋」で映画初主演を務めた。私生活では13年に女優の高野志穂と結婚。


 

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