羽生九段 あさっての場所に“絶妙手”8二金 藤井王将に強いた長考56分 ファンもどよめき

[ 2023年1月22日 05:00 ]

熟考する羽生九段
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 将棋の第72期ALSOK杯王将戦(スポーツニッポン新聞社、毎日新聞社主催)7番勝負第2局は21日、大阪府高槻市の摂津峡花の里温泉・山水館で第1日を行い、先手の羽生善治九段(52)が昼食休憩明けから猛攻を開始。藤井聡太王将(20)=竜王、王位、叡王、棋聖含む5冠=相手に激しいやりとりを経て頭一つ抜け出しかかった場面で61手目を封じ、指し掛けた。激戦必至の第2日はきょう22日午前9時に再開する。

 おおおー!えええ?ほんま?

 控室と大盤解説場を驚がくさせるに十分な異次元の好手が飛び出したのは、羽生の59手目▲8二金だった=第1図。攻め落とすべき目標の藤井王は遠く3一にいる。むしろその位置に導いたのは羽生自身だ。なのにとんでもなくあさっての場所に貴重なカナ駒を打ち込むなんて。

 なんなんだこの手は。涼しい顔の羽生とは対照的に史上最年少5冠は金縛りに遭ったような表情を浮かべる。時間の経過とともにこの1手の意味が明らかになった。藤井が放置した場合、▲7二金△同金▲5二飛の「詰めろ金取り」の必殺技がかかる。ほぼゲームセットではないか。

 結局56分の長考を相手に強いて王が4二に上がったのを確認した羽生は37分を投じて封じ手を選択。かつてのライバルでもある正立会人・谷川浩司17世名人(60)に封書を手渡す背中には、そこはかとなく力強さがみなぎっていた。

 「(48、49手目で)飛車交換になり、かなり激しい展開ですか。この辺から組み立てが難しくなるのかな。流れに乗ってこの局面になってますね」

 冷静に第1日を分析する羽生が先手番で選んだのは飛車先の歩を突き合う相掛かり。「予定の作戦」と明かす。ただ「途中までは前例のある形だったんですが違う対応をされたので…」と指摘したのは38手目の△4四同銀。ここから未知の世界に入る。羽生の選択は右サイドからの連続攻撃だ。1筋の端歩を突いて2六に飛車を展開させ、1三に歩を垂らして味を付けてからダイナミックに飛車交換。その大駒を2一に叩きつけ、さらに53手目▲1四角とおしゃれな端角だ。一連の波状攻撃に、さしもの藤井も防戦一方となる。

 そこで突然放ったのが左サイドの8二金だ。これが研究範囲の手だとしたら、とてつもない。

 「またここからねじり合いが続いていくでしょうね」と第2日を予測して夕食に入った羽生は柔らかな笑みを浮かべた。なにしろ封じ手で消費した37分を含めても、持ち時間は1時間28分の貯金がある。ウサギ好きらしく、午前のおやつに選んだ「雪うさぎ」についても「せっかくなんで注文しました。ええ、おいしかったです」とご機嫌だ。確実に握っている主導権。タイ勝に向けて絶好のポジションにいる。(我満 晴朗)

 ≪谷川17世名人「私には考えつかない」≫羽生が指した▲8二金について、立会人の谷川17世名人は「私は考えつかない手」と驚きの声で受け止めた。対局は1~4筋で大駒を交換し合う攻防が続いていたが、羽生の一手は遠く離れた8筋へ。AIは最善手と示していたが、誰もが驚いた瞬間だった。羽生が深い研究を重ねただけでなく、広い視野で盤面を捉えていることを表していた。

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