「鎌倉殿の13人」最終回“伏線”のえ・菊地凛子 涙のワケ…ラストシーン“暗転”生んだ劇伴の“奇跡”

[ 2022年12月29日 09:30 ]

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第47話。のえ(菊地凛子)は北条義時(小栗旬)との“すれ違い”に涙(C)NHK
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 脚本・三谷幸喜氏(61)と主演・小栗旬(40)がタッグを組み、視聴者に驚きをもたらし続けたNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(日曜後8・00)は18日、最終回(第48回)を迎え、完結した。主人公・北条義時の最期を日本のドラマ史に刻み込んだ衝撃的なラストシーンとともに、大反響を呼んだのが義時&のえ夫妻の終着点。最終回を担当したチーフ演出・吉田照幸監督に撮影の舞台裏を聞いた。

 <※以下、ネタバレ有>

 大河ドラマ61作目。タイトルの「鎌倉殿」とは、鎌倉幕府将軍のこと。主人公は鎌倉幕府2代執権・北条義時。鎌倉幕府初代将軍・源頼朝にすべてを学び、武士の世を盤石にした男。野心とは無縁だった若者は、いかにして武士の頂点に上り詰めたのか。三谷氏は2004年「新選組!」、16年「真田丸」に続く6年ぶり3作目の大河脚本。小栗は大河出演8作目にして初主演に挑んだ。

 最終回は「報いの時」。北条義時(小栗)は北条泰時(坂口健太郎)を鎌倉方の総大将に据え、朝廷との“最終決戦”「承久の乱」(1221年、承久3年)に勝利。後鳥羽上皇(尾上松也)を隠岐島へ流罪とした。

 3年後、義時は不意に昏倒。京の知り合いが送ってきたという「薬草を煎じたもの」を、のえ(菊地凛子)に勧められるが「これを飲みだしてから、具合が悪くなった気がする」。体調はさらに悪化し、医者(康すおん)によれば原因は「麻の毒」。義時が問い詰めると、のえは「あら、バレちゃった」と白状した。

 義時「もっと早く、おまえの本性を見抜くべきだった」

 のえ「あなたには無理。私のことなど、少しも、少しも見ていなかったから。だからこんなことになったのよ!」

 愛息・北条政村(新原泰佑)を跡継ぎにしたかったのえ。前妻・八重(新垣結衣)比奈(堀田真由)とも比べられた。別れ際、「私に頼まれ、毒を手に入れてくださったのは、あなたの無二の友、三浦平六殿ね」――。

 吉田監督は第47回「ある朝敵、ある演説」(12月11日)の“のえの涙”をキーポイントに挙げた。

 政村を後継者にしたいのえに対し、政子(小池栄子)は「小四郎が太郎に跡を継がせたいというのなら、従ってはいかがですか」、実衣(宮澤エマ)は「大きすぎる望みは命取りになりますよ、この鎌倉では」。そして、義時が「太郎、私は、おまえが跡を継いでくれることを何よりの喜びと感じている。おまえになら安心して北条を、鎌倉を任せることができる」と自分の命と引き換えに、鎌倉を守る覚悟を決めた会話を、のえは立ち聞き。部屋から出てきた義時が何も言わずに立ち去ると、のえは涙し、顔を歪めた。

 台本のト書きには「のえがじっと話を聞いている」とあるだけだったが、菊地の感情があふれ出した。

 「OKを出した後、菊地さんに聞きに行ったんです。『その涙は?』って。菊地さんは『やっと分かりました。ずっと義時に悪態をついてきたのえですけど、本当は義時が大好きなんですよね。だから自分に何も声を掛けてくれなかったことに悲しくて、つらくて…』涙が出たと。僕自身、ここでののえさんの心情が見えなかったので、ハッとなりました。そこには確かな愛があったんだと。最終回の決断は、義時を愛してたからこその憎しみなんですよね」

 初登場の第34回「理想の結婚」(9月4日)から二面性があらわになる難役。「菊地さんも最初は探り探りだったと思うんですけど、47回の涙と最終回の肝の据わり方は流石としか言いようがありません。のえも義村も一見、どこに真意があるのか分からない人物ですよね。そんな不可解な2人が、単なる恨みなんかじゃなく、最後に主人公の命を狙う。だから、義時にも苦味が残る。のえに『私のことなど、少しも、少しも見ていなかったから』と突き付けられて、義時にも痛みが走っているわけですよね。やっぱり、のえが不可解な人でなければ、つまり、いい人に見えると、義時がただの悪者になってしまって、最期を迎える時に主人公として成り立たなくなります。この絶妙なバランスが、三谷さんの脚本の凄さの一つ。逆に言えば、それが読み取れないと、訳の分からない話の流れになってしまう。役者もスタッフも三谷さんの脚本を理解しようと一生懸命だったことが、『鎌倉殿の13人』という作品の魅力につながったのかなと思います」と振り返った。

 吉田監督はラストシーン用の曲「鎌倉のため」を作曲家エバン・コール氏にオーダー。政子が毒消し薬をこぼす手前からかかり始めた曲だ。

 義時は床を這いつくばり、生への執念。泰時への小さな観音像(髻観音)を政子に託す。政子は「ご苦労さまでした…小四郎」と別れを告げた後、義時のそばに近寄り、頬に手を添える。約5分の曲が終わると、政子の嗚咽だけが聞こえる。

 コール氏は出来上がった映像を見ず、台本からの着想だけで作曲している。吉田監督は「どれだけ彼が脚本を読み込んでいるか、その証しですよね。物語のうねりや登場人物の感情の流れにメロディーがハマるので(映像と曲の)イン(始まり)とアウト(終わり)がピッタリ合う時が多いんです。このシーンも、曲は一切編集をしてません。編集室でここからかなと仮に(曲を)つけてみたら、ピッタリ終わって…その時、最後は黒味(真っ黒な画面)にして政子の嗚咽だけにしようと思いつきました。『鎌倉殿の13人』は三谷さんやエバンさんのような素晴らしい才能をいかに視聴者に伝えられるか、彼らから受けた刺激を形にして、いかに面白く視聴者に伝えられるか、それが僕たちの仕事だったのかなと思います」と結んだ。

 29日は「総集編」(後1・05~5・40)が放送される。

 ◇吉田 照幸(よしだ・てるゆき)1993年、NHK入局。広島放送局などを経て、2004年、ドラマ形式のコント番組「サラリーマンNEO」を企画・演出。シリーズ化・映画化の大ヒットとなった。朝ドラは13年前期「あまちゃん」で初演出、20年前期「エール」でチーフ演出・共同脚本を務めた。他の代表作にコント番組「となりのシムラ」「志村けん in 探偵佐平60歳」、ドラマ「獄門島」「悪魔が来りて笛を吹く」「八つ墓村」、映画「探偵はBARにいる3」など。大河ドラマに携わるのも時代劇も今回が初。「鎌倉殿の13人」は全48回のうち、最多17回を担当した。

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