【内田雅也の追球】「特別な10月」の幸せ ポストシーズンゲームの季節

[ 2022年10月2日 08:00 ]

秋晴れの甲子園球場で全体練習を行う阪神ナイン(撮影・大森 寛明) 
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 江戸時代の狂歌に「世の中は、いつも月夜に米の飯」がある。狂歌師、四方赤良(太田南畝、蜀山人=1749―1823年)の作。電気などない時代。月の光に照らされ、庶民には貴重だった白米を食べられれば不足なく、幸せだった。

 替え歌に「いつも月夜に常九月」「常に九月で米の飯」などがある。9月は旧暦で、新暦の今では10月。収穫期、実りの秋を意味している。

 プロ野球も総決算のときにある。2月のキャンプインから早春のオープン戦、春の公式戦開幕から梅雨、猛暑の夏を経て秋にいたる。シーズン、季節とともに戦ってきた締めくくりの時期にある。それが10月なのだ。

 大リーグでは「Always October」(いつも10月)といった言い方がある。レギュラーシーズンを終え、上位チームによる地区プレーオフからリーグ優勝決定シリーズ、そしてワールドシリーズと、一戦必勝で熱戦を繰り広げる10月を特別視している。

 アメリカの野球記者、デーブ・アンダーソン(1929―2018年)は<あらゆるもののなかで10月の野球は最高だ>と書いている。ニューヨーク・タイムズ1996年10月20日付にある。<野球では確かに退屈な試合もあるだろう。しかし10月は違う。特別だ>。

 アンダーソンは野球記者の草分け的存在、レッド・スミス(1905―1982年)の友人で<私はスポーツ記者になりたかったわけではない。野球記者になりたかったのだ>と書いている。

 日本のプロ野球も近年、シーズンが早まり、大リーグと似てきた。10月はポストシーズンゲームの季節となった。

 幸いなことに阪神はまだ試合ができる。巨人が敗れ、3位でのクライマックスシリーズ(CS)進出が確定した。

 きょう2日はレギュラーシーズン最終戦。本拠地・甲子園球場でのヤクルト戦だ。入場券は前売りで完売し、超満員となる。甲子園では6月26日以来のデーゲームだ。天気予報が秋晴れの青空を伝えている。最高の舞台で試合ができる。選手も記者も、そしてファンも幸せをかみしめたい。

 4年間監督を務めた矢野燿大には最後かもしれない甲子園。さまざまな思いが交錯するなか、総決算の試合を楽しみにしている。=敬称略=(編集委員)

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