藤井王将 芸術的2勝 “羽生マジック”封じ最年少防衛へ白星先行

[ 2023年1月30日 05:30 ]

第72期ALSOK杯王将戦7番勝負第3局第2日 ( 2023年1月29日    金沢市「金沢東急ホテル」 )

現代アートの町金沢で、スポニチ的現代アート!?の主役となる藤井王将(撮影・吉田剛、西尾大助、河野光希、岸 良祐)
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 第72期ALSOK杯王将戦(スポーツニッポン新聞社、毎日新聞社主催)7番勝負第3局は金沢市「金沢東急ホテル」で2日目が指し継がれ、藤井聡太王将(20)=竜王、王位、叡王、棋聖含む5冠=が羽生善治九段(52)に95手で勝利した。対戦成績2勝1敗と再びリードし、王将戦における史上最年少防衛へ一歩前進した。昨年6月以来の先手番での連勝も22に更新。第4局は2月9、10日に東京都立川市「SORANO HOTEL」で指される。

 将棋の定跡本にとどまらず、経済学の教科書にも載せたらどうだろう。藤井が最小の投資で最大の効果を手にした。わずか2枚の歩で羽生の入王を阻止した。

 「▲4五歩と打てて(羽生王の)上部脱出を阻む形ができた。感触は悪くないが、攻め駒が少なく難しいのかなと思った」

 昼食休憩前、羽生王が金銀4枚の城壁に囲まれ、58手目△4四王と進出した。前線には3六歩、4六歩のバリケード。その先にある飛車金桂を物量で封じにきた。

 ほのかに漂う相入王のにおい。藤井は▲3七歩(第1図)で打ち破った。

 △同歩成に▲4五歩。△同王なら、飛車金両取りの3七とを除去する桂跳ねが、さらに王手にもなる芸術的手順。さらに△3六王▲2三馬△4七歩成を許すと入王目前のようだが▲4五銀の王手以下で羽生王を受けなしに追い込める。

 従って羽生に62手目△3三王の退却を強いた。出たのに同じ場所へ戻る、寄せ合いでの2手損は決定打だ。直後、金沢の郷土料理を使った「治部煮うどん」を味わった昼食休憩時。「(羽生の)抑え込みをかいくぐれるかどうか、と昨日言いましたが、そういう展開が続いています」と藤井は語った。戦いはなお佳境という。ただ、その表情は柔らかく、好感触を伝える口ぶりだった。

 再度白星先行の2勝目を挙げた。雁木(がんぎ)という、羽生が3局連続繰り出した変化球。その過程では、羽生に振り飛車という選択肢もあった。

 「居飛車、振り飛車もある出だし。どちらにも対応できる手を考えながら指した」。相手の事前準備にも、持ち時間内で克服するすべを蓄えてきたからこその快進撃。王将戦での最年少防衛は86年度、中村修王将が中原誠名人を挑戦者に4勝2敗で達成した24歳4カ月。その大幅更新へ、20歳6カ月が1敗で前進した。

 20年棋聖戦での初出場以来、タイトル戦50局目でまたも連敗を免れた。加えて昨年6月、棋聖戦第1局で敗れたのを最後に、先手番で継続する連勝も22に伸ばした。「それは意識してません。裏返せば後手の勝率が下がっているということ」。今年度25勝1敗の先手に対し、後手で16勝7敗。史上最年少5冠は、会心譜からも的確に課題をすくい上げる。

 朝は晴れ間の見えた金沢の空から終局時、粉雪が舞った。20歳の若武者を祝う白雪に見えた。

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