MLBの滑るボール問題 ニッポンの技術を導入すれば解決できるのに

[ 2021年6月23日 15:30 ]

審判員による粘着物質のチェックを再度受ける先発のダルビッシュ有(共同)
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 【永瀬郷太郎のGOOD LUCK!】MLBが6月21日(日本時間22日)、粘着物質の不正使用取り締まり強化の一環として投手の帽子やグラブの検査を始めた。

 同日のドジャース戦に先発したパドレスのダルビッシュ有投手も初回と4回終了時の2度チェックされた。もちろん「ノー・プロブレム」。7者連続三振を奪うなど6回を2安打1失点の好投で7勝目を挙げた。

 11個を加えた奪三振数は通算1500に到達。197試合、1216回1/3での到達はそれぞれ206試合のランディ・ジョンソン(到達時マリナーズ)、1290回のスティーブン・ストラスバーグ(ナショナルズ)を上回るメジャー最速ペースだ。凄いよね。

 滑りやすいローリングス社製のメジャー使用球。滑り止めのロジン以外の使用は禁止されているが、実際にはシェービングクリームや松やになど暗黙の了解で使用されてきた。ここに来て投球の回転数増や鋭い変化球を投げる目的で複数の投手が粘着力の高い物質を使用しているという疑惑が浮上。今回の取り締まり強化につながったのだが、シーズン途中の唐突な措置に異を唱えたのがダルビッシュだった。

 「MLBは前から(公然の秘密を)知っていたのだから、シーズン中にいきなり“それは使えない”というのではなくて、ボールを変えることが先だろうと思う」

 こう訴えると同時に日本からミズノ社製のNPB統一球を取り寄せ、チームメートや対戦相手の投手に見せたという。しっとり感のある日本のボールは好評だったらしい。よくぞ言ってくれた。やってくれた。

 ローリングス社製とミズノ社製のボールはどこが違うのか。
 質感については製造工程に違いがある。3年前、スポニチ本紙のコラム「オヤジのぴりから調」で「日米のボール統一を」という原稿を書いた際、ミズノ社に問い合わせたところ「弊社は牛革をなめす際に、油を入れてしっとり感を出しています」と説明された。ジャパン・クオリティーである。ローリングス社には確かめていないが、同じ牛革でつくるボールが滑るということは、油でしっとり感を出すというような工程は取り入れていないと思われる。

 サイズも違う。野球のボールは世界共通の公認野球規則で重量141・7~148・8グラム、円周22・9~23・5センチと定められている。製造過程で生まれる誤差を想定して幅を持たせているのだろうが、ローリングス社製はその上限、ミズノ社製は下限に寄せてつくられていると言われる。

 NPB球に比べて少し大きくて重く、ツルツル滑るMLB球。1個1個のばらつきも大きい。サイズはともかく、滑る質感やばらつきはニッポンの技術を導入すれば改善できるはずだ。

 MLBは2018年6月、ロサンゼルスの投資会社と共同でローリングス社を買収。今季は本塁打を抑制するため低反発のボールをつくらせ、導入している。傘下の企業。指示すれば、どんなボールでもつくらせられるのだ。

 ローリングス社が滑らないボールをつくれば、おかしな粘着物質は必要なくなるし、肩や肘の故障も少なくなると思う。日本の選手もローリングス社製が使用されるMLB主催のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)のたびに苦労しなくてすむしね。

 ちなみに東京五輪では世界野球ソフトボール連盟(WBSC)の公認球、日本のSSK社製のボールが使用される。2008年の北京五輪ではミズノ社製のNPB統一球が使われたが、WBSCとミズノ社の契約は2016年で終了。現在はSSK社が契約を結んでいる。ミズノ社製と比べて「ほとんど違和感がない」という質感。悲願の金メダル獲得に向けてボールが障害になることはない。

 さてMLBである。メジャー通算1500奪三振最速記録を塗り替えたダルビッシュの声を聞いて、ニッポンの技術に目を向けてほしいな。

 イチロー、ダルビッシュ、大谷翔平に続いてジャパン・クオリティーのボールがメジャーの歴史を塗り替えたらうれしい。(特別編集委員)

 ◆永瀬 郷太郎(ながせ・ごうたろう)1955年9月生まれの65歳。岡山市出身。80年スポーツニッポン新聞東京本社入社。82年から野球担当記者を続けている。

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