【内田雅也の追球】窮地で本領発揮、阪神・糸原の先制決勝打 あえてフルカウント勝負に挑んだ?

[ 2021年6月23日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神2ー1中日 ( 2021年6月22日    バンテリンD )

<中・神(9)>2回1死一、二塁、糸原は3-1からストライクを見逃してフルカウントに(この投球の後、右前適時打)(撮影・坂田 高浩)
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 阪神・糸原健斗は粘り強い打者である。カウント別打撃成績にその特徴がよく出ている。

 試合前、21日現在で、2ストライク後も打率・245と高率である。特に打点9は0ストライク時の3、1ストライク時の3を大幅にしのぐ。

 さらに、2ボール―0ストライクや3―1といった打者有利のカウントでの打撃結果が際だって少ない。2―0が2打数無安打、3―1が3打数1安打。3―0は打数がない。他のカウントは少なくとも11打数あり、いかに少ないかが分かる。

 つまり、2―0や3―1で糸原は打ちに出ていないわけだ。もちろん、ファウルや空振りで打撃結果として記録されないケースもある。ただ、傾向としては待球主義で、投手の球数を稼ぎ、追い込まれても粘る。真綿で首を絞めるような打撃姿勢である。

 この夜の先制決勝打はそんな特徴が出たものだった。いや、持ち味を発揮したと言うべきだろうか。

 2回表1死一、二塁。3―1からの外角カッターを見逃した。記者席で身を乗り出すようなカウントで、打席の糸原は“あえて”見送ったように見えた。右方向に引っ張りたい状況だったので、外角カッターは捨てていたのかもしれない。

 “あえて”と書いたのは、3―2のフルカウントにし、ベンチの走者スタート(ランエンドヒット)の作戦を誘ったという意味である。そんな風に見えた。

 勝負球。2人の走者はスタートを切った。真ん中にきたフォークをたたくようにはじき返した。打球は一、二塁間をゴロで破った。スタートしていた二塁走者・佐藤輝明は悠々、本塁を駆け抜けた。2ストライク後10打点目である。

 もう一度、カウント別打撃成績を見返せば、糸原はフルカウントで打率・294(17打数5安打)4打点、6四球と好成績を残していた。やはり、あえてフルカウントにしてから勝負を挑んだのかもしれない。もしくは、カウント3―1でも3―2でも有利不利は変わらないという実績も自信があるのだろう。

 同様の場面について、監督も務めた和田豊(現球団本部付テクニカルアドバイザー=TA)がかつて「3―1からあえて1つ待って、3―2から勝負することもある」と語ったのを覚えている。フルカウントで走者スタートならば、相手守備の乱れを誘えるかもしれない。内野ゴロでも走者を進めることができる。普通に打つより何かが起きる確率が高まる。空振り三振で併殺のリスクはあるが、バットコントロールに自信のある打者はそんな芸当ができるのだ。

 スタートしていたため右前打で一塁走者ジェリー・サンズも三塁まで進み2点目につながった。

 サンズの足は速くない。通常なら一、二塁で、続く梅野隆太郎の中前打で生還は難しかった。二塁手が飛びつくライナー性でスタートが切りづらい打球だった。

 一方で糸原は7回表1死一塁、カウント2―1からのヒットエンドランはゴロが二塁正面を突いて併殺となった。走者スタートはギャンブル性を伴う、一つの賭けなのだ。

 何しろ、相手先発は難敵の大野雄大だった。誰もが、1、2点の勝負と見ていたはずだ。早々と訪れた貴重な好機(2回表)に持てる技術や胆力を結集したのだろう。

 2ストライクと自らを窮地に追い込んで、なお本領を発揮する。死中に活を求めるかのような、味わい深い、いぶし銀の一打だった。 =敬称略= (編集委員)

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