NHK中條誠子アナ 大先輩の山根基世さんの域へは「愚直にやるしかない」

[ 2023年5月17日 08:30 ]

アナウンサーに必要なものについて語る中條誠子アナ
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 【牧 元一の孤人焦点】NHKラジオ第2「アナウンサー百年百話」(水曜後10・00)の今月の特集「女性アナウンサーが開いた放送の扉」の司会を担当する中條誠子アナ(49)がインタビューに応じ、17日放送と24日放送にゲスト出演する大先輩の山根基世さん(75)について語った。

 「私の新人時代、山根さんがアナウンス室で新人たちに向けて話した言葉が忘れられません。『38歳くらいから本当にこの仕事が楽しくなった』。当時22歳だった私は、そのくらいの年齢になると画面に出なくなるのでは?と思っていました。でも、今回の番組で山根さんのお話をうかがい、その答えが分かりました」

 山根さんはドキュメンタリー番組「映像の世紀」シリーズ(1995年~)やTBSのドラマ「半沢直樹」(2013年、20年)などのナレーションで知られる。

 山根さんがNHKに入局したのは1971年。80年に新番組「ニュースワイド」のキャスターに抜てきされて83年まで務めたが、その後、デスクに「女性が担当できる仕事は一通り終わった」と告げられた。

 「山根さんは組織で働いていく展望を持てなくなったそうです。そんな時に担当したのが『関東甲信越・小さな旅』で、そこで市井の人たちから生きた言葉を聞くことができ、これが本当に自分がやりたかったことだと気づいたそうです。世の中にはさまざまな人生を送っている人たちがいる。さまざまな言葉を持っている人たちがいる。それを多くの人たちに知ってもらいたい。それが放送人としてのモチベーションの原点で、いかに多くの人たちに見られるかということより、その原点を持っているかどうかということが大切なのだと思います」

 山根さんは91年から92年まで、働く女性向けの番組「はんさむウーマン」のキャスターを担当した。86年に男女雇用機会均等法が施行され、女性の社会進出が進む中での試みだった。

 「山根さんはここで大きな挫折を味わいます。自分が番組でやりたいことを会議で提案しても一切受け入れられなかったそうです。その時、意見が異なる人たちと一つのチームでやっていくためにはその人たちの自尊心を傷つけてはいけないということに気づきます。本当の自分の言葉を持っていないと人はついてこないということを学びます。自分が体験して自分の頭で考えた言葉でなければ人の心には届かないと痛感します。その後、山根さんは女性初のアナウンス室長になりますが、それは、その時の経験から得た組織人としての言葉があったからだと思います」

 中條アナは山根さんの入局から25年後の96年に入局し、「NHKスペシャル」「ダーウィンが来た!」などのナレーションを務めた。

 「昔、山根さんに『器用貧乏にならないでね』と言われたことがあります。さまざまなナレーションをやることで『七色の声』と書かれたこともありましたが、私自身も本意ではありませんでした。器用にやってしまったら、その人物の真相を伝えるナレーションはできない。山根さんがおっしゃるように、自分の頭で考えた言葉じゃないと届かない。まず、自分がその番組をどう思っているのか、番組から何が伝わるべきなのかを考える。考えるだけではなく、取材担当者やディレクターに話を聞く。分からないことがあれば調べる。そうやって自分の中から出てきた言葉で勝負していかなければいけない。肝に銘じています」

 今やAIの音声がニュースを読む時代だ。アナウンサーには昔以上に個性が求められているのかもしれない。

 「個性というのは非常に難しいです。必要なのは、表面的な何かを整える個性、作って行く個性ではなく、内側から出てくる個性、誰にもまねできない唯一無二の個性だと思います。山根さんの域に行き着くためには、ひとつひとつの仕事を愚直にやっていくしかありません」

 それは男女を問わず、アナウンサーに限らず、全ての表現者に求められるものだろう。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。

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