【鎌倉殿の13人 秘話6】三谷大河の真骨頂 13人衆の評議「1本の映画」小栗旬の凄み“居残り現場愛”

[ 2022年12月15日 10:00 ]

「鎌倉殿の13人」最終週インタビュー(6)安藤大佑

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第28話。“13人衆”による評議は一向にまとまらない(C)NHK
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 脚本・三谷幸喜氏(61)と主演・小栗旬(39)がタッグを組み、視聴者に驚きをもたらし続けたNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(日曜後8・00)は18日、ついに最終回(第48回)を迎える。最終週インタビュー第6回は演出の安藤大佑監督。三谷脚本と小栗の魅力を聞いた。

 <※以下、ネタバレ有>

 大河ドラマ61作目。タイトルの「鎌倉殿」とは、鎌倉幕府将軍のこと。主人公は鎌倉幕府2代執権・北条義時。鎌倉幕府初代将軍・源頼朝にすべてを学び、武士の世を盤石にした男。野心とは無縁だった若者は、いかにして武士の頂点に上り詰めたのか。最終回は、江戸幕府まで続く強固な武家政権樹立を決定づけた義時と朝廷の決戦「承久の乱」が描かれる。三谷氏は2004年「新選組!」、16年「真田丸」に続く6年ぶり3作目の大河脚本。小栗は大河出演8作目にして初主演に挑んだ。

 歴史への深い造詣をベースに、三谷氏が史実と創作を鮮やかなまでに融合。日本三大仇討ちの1つ「曽我兄弟の仇討ち」(曽我事件)は「敵討ちを装った謀反ではなく、謀反を装った敵討ち」など歴史ファンも唸る“新解釈”を生み出しながら、笑いとシリアス、緊張と緩和の振れ幅を大きく自在に操る作劇こそ“三谷大河”の真骨頂。第28回「名刀の主」(7月24日)の冒頭で描かれた「13人衆の評議シーン」が象徴的だった。

 常陸の御家人兄弟、大谷太郎・次郎の土地争い。司会は(1)大江広元(栗原英雄)、進行は(2)三善康信(小林隆)と(3)二階堂行政(野仲イサオ) 。

 (4)北条時政(坂東彌十郎)と(5)三浦義澄(佐藤B作)が太郎、(6)比企能員(佐藤二朗)が次郎に肩入れ。「政に私情を挟むんじゃねぇ」(時政)「どの口が、どの口が」(能員)と口論になると(7)和田義盛(横田栄司)が「表に出ろ!」と立ち上がり、興奮。能員は「表に出ろと言われて、表に出てよかった試しはない!」と言い返した。

 (8)北条義時(小栗)はタメ息をつき(9)梶原景時(中村獅童)に「弱りましたね」。そこへ(10)八田知家(市原隼人)は兄弟の父親が亡くなったのは20年以上前だと疑問を挟む。(11)安達盛長(野添義弘)は居眠り。文官の調べによると、知家の指摘通り、この20年、土地の耕作を取り仕切ってきたのは次郎の方。義時は「大谷太郎は鎌倉殿が代わられたのをいいことに、この機に乗じて、次郎の土地を奪おうとしているのではないでしょうか」と推察した。

 時政と能員が再び口論。義盛が意見を求めると(12)足立遠元(大野泰広)は時政の「言い掛かりじゃ」に同意した。「申し訳ないが!」と割って入ったのは、書記の(13)中原親能(川島潤哉)。「皆さま、しゃべるのが速すぎて、追いつけぬ。オオヤというのは“大きい谷”でよろしいのか」。あまりのグダグダぶりに、景時が「そこまで!」と一喝した。

 「よしみを重んじ、便宜を図るのは、政の妨げになるので、以後やめていただきたい!あなた(能員)もだ!」と声を荒らげ「内情も知らずに次郎の肩を持たれた。北条殿を責めることはできませぬぞ。これでは評議になり申さぬ。(源頼家には)お伝えはいたさぬ。いま一度、双方の言葉を聞き、評議をやり直す。(立ち上がり)無駄な時でござった」と呆れ返り、その場を後にした。

 オンエア上、一連のシーンは約4分。安藤監督は「13人の御家人一人一人の個性を際立たせながら、笑いあり、緊張感あり、ストーリー上重要な北条と比企の対立、景時への反感も盛り込まれていて、あのシーンだけで1本の映画を見たような感覚があって。あらためて三谷さんの凄さを実感した場面でした」。「実朝暗殺」の第45回「八幡宮の階段」(11月27日)と同じく「特に気合を入れて臨んだのが思い出されます」と振り返った。

 タイトルの基になった“13人衆”は第27回「鎌倉殿と十三人」(7月17日)で勢揃いしたが、13人による評議はこのシーンのみ。「演出が三谷さんと直接お話をさせていただくことは毎回はないんですが、ここは一つ一つの台詞の意図をうかがうことができました。重要なシーンなので何とか盛り上げたくて、それを演者の皆さんにお伝えしようと必死だったんですけど、百戦錬磨の13人の方々は言わずもがなで分かっていらっしゃって。僕の気合が空回りしていました(笑)。撮影部も、例えば知家の横顔なめで居眠りしている盛長が絶妙な間で見えてくるとか、一人一人のキャラクターを生かすカメラワークを工夫してくれて。13人衆唯一の評議を担当できて、素晴らしいシーンに仕上がって、本当に光栄でした」と述懐した。

 毎日メッセージを書き込んだ“小栗マスク”をはじめ、小栗の座長ぶりは既に視聴者にも知られるが、安藤監督は第45回「八幡宮の階段」のエピソードを挙げた。

 オンエア上は約10分間にわたった、源仲章(生田斗真)と源実朝(柿澤勇人)が討たれ、公暁(寛一郎)が逃げるまでの一連のシーン。撮影はたっぷり丸3日。普段は別室で行うリハーサルも、NHK内のスタジオに組んだ大階段のセットを用い、立ち回りなどの動きを確かめた。

 「小栗さんはとにかく『鎌倉殿の13人』という作品、そして、すべてのキャラクターを愛していらっしゃいます。例えば45回の立ち回りのリハーサルも、大階段の下にいる義時は関わらないんですが、小栗さんは現場に残って仲章・実朝・公暁の動きにアイデアを出してくださったり。仲章の死に際も、いかにぶざまに、そして狂気をはらんだ最期にするのか、一緒にディスカッションしてくれました。全員を最大限生かすにはどうすればいいかと、現場全体に広く深くアンテナを張っていらっしゃる。小栗さんの凄さは、その包容力に尽きると思います。助けられることばかりで、心から感謝しています」

 ◇安藤 大佑(あんどう・だいすけ)2008年、NHK入局。最初の赴任地・佐賀局時代の10年には、ショートドラマシリーズの一編「私が初めて創ったドラマ 怪獣を呼ぶ男」(主演・星野源)の作・演出を手掛けた。12年からドラマ部。大河ドラマに携わるのは13年「八重の桜」(助監督)、14年「軍師官兵衛」(助監督)、17年「おんな城主 直虎」(演出・1話分)に続いて4作目。「鎌倉殿の13人」は第10回「根拠なき自信」(3月13日)、第14回「都の義仲」(4月10日)、第19回「果たせぬ凱旋」(5月15日)、第24回「変わらぬ人」(6月19日)、第28回「名刀の主」(7月24日)、第45回「八幡宮の階段」(11月27日)を担当した。

 =最終週インタビュー(7)に続く=

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