だから大横綱になれる 白鵬の強さ 一言で表現した九重親方

[ 2016年8月11日 10:35 ]

2010年9月、大相撲秋場所7日目で54連勝を達成し、支度部屋で1988年に53連勝を記録した九重親方から祝福を受ける白鵬

 大相撲の名古屋場所千秋楽から1週間後の7月31日。第58代横綱・千代の富士として31度の優勝(史上3位)を果たした九重親方(当時)こと、秋元貢さんが膵臓(すいぞう)がんで亡くなった。61歳だった。

 今から6年前の秋巡業。相撲担当になって初めて九重親方を取材した時のことが忘れられない。当時、親方は巡業部長だった。その日の朝稽古を総括してもらおうと恐る恐る役員室のドアをたたいた。その瞬間「なんだ!」とすごまれ、思わず親方の前に正座した。そして勇気を振り絞って質問をぶつけると「何も答えることはない!一番強い人(白鵬)が一番(稽古を)やってるんだから。以上!」と吐き捨てるように言われ、すぐさま退室を余儀なくされた。国民栄誉賞を受賞した大横綱のオーラに圧倒されたが、その一言だけで当日の原稿はできあがった記憶がある。

 九重親方はその後も白鵬を評価し続けた一方で、白鵬と対戦する力士に対しては疑問を投げ掛け続けた。「白鵬を倒したいなら白鵬のところに出稽古に行くことだ」。メディアを通じて何度も何度も同じことを言っていた。白鵬は横綱昇進後も巡業で積極的に気になる関取をつかまえては力量をはかり、場所前にも必ず警戒する対戦相手の部屋へ自ら出向いて胸を合わせてきた。その姿勢は31歳となった今も基本的には変わらない。本来であれば格下がやらなければいけないことを横綱がやっている。九重親方は「これでは差が開く一方だ」とぼやいていた。

 先月の名古屋場所前。白鵬は例によって新鋭の御嶽海を目当てに出羽海部屋へ足を運んだ。いざ胸を合わせてみると力の差は歴然で、最後は横綱の強烈な投げによってホープは膝を負傷。そこで稽古は打ち止めとなった。案の定、本場所の初対戦では白鵬が完勝。場所前、百戦錬磨の横綱に心身ともに打ちのめされた若手の御嶽海が勝つことは、やはり難しかった。

 個人的には、たとえ何度も何度も稽古場で打ちのめされても“これでもか”というぐらいに横綱の元に出向いて胸を借りた上で、本場所で真っ向から挑戦するような気骨のある力士が見てみたい。連日のように横綱と胸を合わせることが本場所で一矢報いるための伏線にはなり得る。そして何よりも自らの力量が分かる。「一番強い人が一番やってるんだから」。今後も白鵬が対戦相手の対策を立てるために出稽古を行う度、亡き九重親方の言葉が胸に響くと思う。(鈴木 悟)

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