【メダリストは見た】清水宏保氏 完璧な結果「内村がうらやましいなぁ」

[ 2016年8月11日 12:25 ]

鉄棒で完璧な着地を決めてガッツポーズする内村

リオデジャネイロ五輪体操・男子個人総合決勝

(8月10日 リオ五輪アリーナ)
 体操男子個人総合で27歳の内村航平が2連覇を達成した。金メダリストには周囲の期待、モチベーションの維持などさまざまな問題がのしかかる。2大会連続で金メダルを獲得するのはどれだけ難しいことか。98年長野五輪スピードスケート男子500メートル金メダリストの清水宏保氏(42)が内村の偉業を語った。

 最後に鉄棒の着地がピタリと決まった瞬間は鳥肌が立ちました。五輪は外から見ていても、これだけ興奮するものなんですね。表彰式でメダルをかけられて笑顔を見せる内村選手の姿も、いい光景だなと思って見ていました。

 アスリートとしてこんなうらやましい結果はないですよ。20代半ばの選手として最も脂の乗った時期に個人で2つの金メダルを手に入れ、さらに今回は団体も制した。こんな完璧な結果を残す選手はめったにいないと思います。

 私は長野五輪で金メダルを獲りましたが、今振り返ると、次の五輪までは凄く難しかった。周囲からはもちろん当然次も金メダルという期待が高くなる。顔を知ってもらえるのはうれしい半面、私生活ではちょっと外で食事をする時も、周りから見られているような気がする。長野五輪からの4年間は以前と同じペースで生活できないことに息苦しさを感じることもありました。コンディションを維持するのも大変です。年齢を重ねるごとに、疲労の回復が遅れていきます。体のケアを怠れば、すぐケガにつながります。私は腰を痛めました。

 ただ大きな目標を達成したからといって、スケートに対するモチベーションが下がることはなかった。長野五輪で金メダルを獲ったその日の夜には、次は世界記録を狙おうと考えていたし、4年後の金メダルのことも頭にはありました。内村選手も燃え尽きるようなところは全くなかったと思います。

 それは本当のトップアスリートは結果も大事だけれど、自分の理想とするパフォーマンスや技術を追い求めるからです。私の場合、それはタイムでした。どうすれば自己ベストを100分の1秒でも縮めることができるか。道具をどう使いこなすか、体をどう鍛えるか、日々考えて実践に移すことが楽しかった。それは本当に地道な作業の連続です。毎日同じ時間に起きて、練習して、食事を取っての繰り返し。練習では限界まで追い込んで、朝起きれないほど体が痛かったこともありました。それでも少しでも成果があれば、面白くなるものなんです。

 メジャーのイチロー選手が42歳になった今も現役を続けられるのは、ヒット数のような結果よりも技術の探求を続けてきたからだと思います。もし、結果のことだけを考えていたら、精神的にもきついし、飽きてしまう。きっと内村選手も体をどう回転させようか、どうひねろうか、どんな着地を決めようかと日々、技を探求していると思う。一つの技術を身につければ、また次の新たな技術につながっていく。技術の探求にはゴールがない。だから、内村選手がこれまで最高の演技ができたと思えた瞬間は数えるほどしかないんじゃないでしょうか。

 そんな内村選手が、この大舞台で理想とする最高の演技を披露したのは凄いの一言に尽きます。もし闘争心むき出しで結果を求めて挑んだら、あのパフォーマンスはなかったんじゃないでしょうか。「金メダルが何だ」くらいの少し冷めた気持ちがあったんだと思います。

 そうやって常に最高の演技を求める内村選手も団体総合だけは違った。常に金メダルを公言していたし、結果を求めにいったと思います。団体の時には普段は見せないような不安げな表情を浮かべることがありました。何度も「フーフーフー」と深く呼吸を繰り返してました。それは不安を吐き出して、気持ちをコントロールしているようにも見えました。私は内村選手は元々精神面が強いわけではない気がします。日々の練習で自信を培い、気持ちを制御する術を身につけていったんだと思います。団体戦のあの重圧を乗り越えたことは個人総合へ向けてプラスに働いたはずです。

 今回、体操競技を見ていてチームワークの大切さを改めて感じました。体操もスピードスケートも個人競技ですが、体操には団体戦があります。これがあることで、全体の競技力向上につながっていると思います。仲間のために頑張る。1人がミスをしても、他の誰かがカバーする。選手たちは強い気持ちを持って舞台に立つことができています。近年の競泳の成功も、チームとして戦っていることにあります。スピードスケートには団体戦がありません。どうしても個人が中心になります。長野五輪時、直前に登場したスラップスケートに対応するために、たまたま日本チームに一体感が生まれたことがありましたが、基本的にチームで戦う意識は低い。もし、自分が指導するなら、チームビルディングから入りたいですね。

 私は連覇を狙ったソルトレークシティー五輪では銀メダルに終わりました。よく柔道の野村君や競泳の北島君に会ってメダルの話になると「連覇はできなかったけれど、金、銀、銅(長野五輪1000メートル)全部持っているから」と冗談を言います。でもやっぱり五輪2連覇は難しいですよ。内村選手がうらやましいなぁ。

 ◆清水 宏保(しみず・ひろやす) 1974年(昭49)2月27日、北海道生まれの42歳。スケートは4歳から。白樺学園高―日大。五輪は94年リレハンメルから4大会連続出場。98年長野で500メートル金メダル、1000メートル銅メダル、02年ソルトレークシティーで500メートル銀メダルを獲得。500メートルで01年の34秒32など世界記録4回更新。W杯通算優勝34回。10年3月に引退。1メートル62、70キロ。

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