【鎌倉殿の13人 秘話11】吉田監督も格闘 三谷大河の笑い 最終回も驚き「どの人生も断片にならない」

[ 2022年12月18日 09:00 ]

「鎌倉殿の13人」最終週インタビュー(11)チーフ演出・吉田照幸監督

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第47話。「私のこと殺そうとしたでしょう」と北条義時(小栗旬・右)に迫る実衣(宮澤エマ)。口ごもる北条時房(瀬戸康史)は義時が去った後…(C)NHK
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 脚本・三谷幸喜氏(61)と主演・小栗旬(39)がタッグを組み、視聴者に驚きをもたらし続けたNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(日曜後8・00)は18日、ついに最終回(第48回)「報いの時」を迎える。最終週インタビュー第11回はチーフ演出の吉田照幸監督。三谷脚本の魅力を聞いた。

 <※以下、ネタバレ有>

 大河ドラマ61作目。タイトルの「鎌倉殿」とは、鎌倉幕府将軍のこと。主人公は鎌倉幕府2代執権・北条義時。鎌倉幕府初代将軍・源頼朝にすべてを学び、武士の世を盤石にした男。野心とは無縁だった若者は、いかにして武士の頂点に上り詰めたのか。最終回は、江戸幕府まで続く強固な武家政権樹立を決定づけた義時と朝廷の決戦「承久の乱」が描かれる。三谷氏は2004年「新選組!」、16年「真田丸」に続く6年ぶり3作目の大河脚本。小栗は大河出演8作目にして初主演に挑んだ。

 日本三大仇討ちの一つ「曽我兄弟の仇討ち」(曽我事件)は「敵討ちを装った謀反ではなく、謀反を装った敵討ち」など、歴史への深い造詣をベースに、三谷氏が史実と創作を鮮やかなまでに融合。“神回”“三谷マジック”“神がかる新解釈”の連発に、歴史ファンからも唸る声が相次ぐ。

 源頼朝亡き後の苛烈なパワーゲームも、史実というネタバレがありながら予測不能の展開の連続。そこへ笑いとシリアス、緊張と緩和を振れ幅大きく自在に操る三谷氏ならではの作劇が相まって、稀有な没入感と中毒性を生み出した。

 「サラリーマンNEO」などコント番組の名手でもある吉田監督も、三谷氏のコメディーパートには苦しんだ。

 第47回「ある朝敵、ある演説」(12月11日)、“尼副将軍”になった実衣(宮澤エマ)は北条義時(小栗)に「私のこと殺そうとしたでしょう」と迫った。

 「シリアスな展開なのに、あきらかに笑いの方向で書いてある。本当に難しいんです。実衣はじっと見ている。義時は目を合わさない。政子よりも実衣の方を少し前に座らせる。義時と実衣の間に、困る時房。そこにいる人々の感情や関係性を的確に捉らえて配置しないと、二律背反する要素をうまく表現できないのです。義時が実衣の肩をつかんで説得する芝居は、実は小栗さんからもう一度やらせてくれと言われ、取り直しました。最初はもっとシェイクスピアの舞台のようだったんです。あきらかにやりすぎでした。ま、僕のプランだったんですけど…そういう時に居心地悪く違うアプローチを提案してくれる。こうやって三谷さんの難しい台本を現場で作っていくのです」

 第41回「義盛、お前に罪はない」(10月30日)は、和田義盛が壮絶な死を迎えた。「和田が攻めてきた。御所から逃げなければとなれば、シリアスな流れになります。実際、シリアスです。なのに、ちょいちょい笑いが入ってくる。義時から鶴岡八幡宮か二階堂の館か、どちらに逃げるか問われたのえ(菊地凛子)が『二階堂に戻ります!』と即決する場面。源実朝が連れ出される緊迫マックスの時も、実衣は『今後こそ、死ぬ』と2回言う。これなんかは欲張らなければ、もう台詞の意味のままでもいいんです。でも明らかに、ここはすっとボケた実衣のキャラを表現しようとしている。どう言うか宮澤さんと悩み、話し合いオンエアの言い方になりました。演出にとっては大きなハードルですが、でも結果、その後の壮絶な義盛の死へ向かう前のうまい緩急になっているわけです。みんな、三谷さんに試されているような気がしてたんじゃないかと思います。どっかで勝ってやろう。超えてやろうって。だから『鎌倉殿』の現場は、とても挑戦的な雰囲気に包まれていたと思います」

 「ちなみにこの回は、忘れられないシーンがあります。義盛が無数の矢に倒れ、義時は実朝にきつい言葉を浴びせ、戦場を去る。台本はここまででした。でも僕はどうしても、この後の義時が見たかった。なので、戦場をバックに去る義時を撮影しました。小栗さんに言ったのは質問だけです。『どんな気持ちですか?』。そしてカメラを遠くに据え、リハーサルなしで撮影しました。あの時の表情は、ダークサイドに落ちながらも芯の部分は残っていることを表してました。三谷さんの台本だと、どうしてもよくできているので、演出はどうしても忠実に撮影しようとしてします。でも僕は、彼の台本からインスパイアされる感情や映像を大事にしました」

 「第17回『助命と宿命』(5月1日)で源義高(市川染五郎)が斬られる時も、義高はあの木曽義仲(青木崇高)の認めた息子。武芸で弱くあってほしくなかった。何かないかと悩んだ末に毬を思いつき、大姫(落井実結子)との2人の愛情の象徴として、そして悲劇の仕掛けとして加えました。こういうアイデアも、いつも三谷さんに負けたくないという思いが生み出すものです。ただ撮影を終えて感じるのは、やっぱり違うなと。例えば、第18回『壇ノ浦で舞った男』(5月8日)で『壇ノ浦の戦い』を描くのはドラマ開始23分まで。後半は『壇ノ浦の戦い』が頼朝・義経兄弟に亀裂を生むという流れ。壇ノ浦を描くなら、普通は戦いがクライマックスになりますよね。それを前半で終わらす構成………。壇ノ浦を兄弟の相克の道具立てにする不敵さ。僕も台本を書きますが、まあ、ものが違うと。それは最終回も同じで、どの人の人生も結末を与え、しかも断片にならない。凄いです」

 吉田監督は最終回「報いの時」も担当。「長いドラマというのは、得てして未来に向けたメッセージとともにふわーっと雰囲気で終わることも多いですよね。また逆に面白ければ面白いほど期待が高まり、それに応えようとして無理な裏切りや、意味のないスケール拡大をしてしまう。ただ『鎌倉殿の13人』は、そのどちらにもなっていません。三谷さん、よくぞやってくれました。難易度マックスの回を役者は見事に演じてくれました。そこには積み上げてきた命があります。1年間見てよかったと、きっと視聴者の方々も感じてくれるでしょう。初めてのドラマは『あまちゃん』でした。初めての大河ドラマは『鎌倉殿の13人』でした。僕は幸せです」。しみじみと実感がこもった。

 ◇吉田 照幸(よしだ・てるゆき)1993年、NHK入局。広島放送局などを経て、2004年、ドラマ形式のコント番組「サラリーマンNEO」を企画・演出。シリーズ化・映画化の大ヒットとなった。朝ドラは13年前期「あまちゃん」で初演出、20年前期「エール」でチーフ演出・共同脚本を務めた。他の代表作にコント番組「となりのシムラ」「志村けん in 探偵佐平60歳」、ドラマ「獄門島」「悪魔が来りて笛を吹く」「八つ墓村」、映画「探偵はBARにいる3」など。大河ドラマに携わるのも時代劇も今回が初。「鎌倉殿の13人」は全48回のうち、最多17回を担当した。

 =最終週インタビュー(12)に続く=

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