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【内田雅也の追球】「タラレバ」を「カラ」に換えられるか 痛恨被弾相次ぐ阪神バッテリー

[ 2020年11月4日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神1―4ヤクルト ( 2020年11月3日    甲子園 )

6回2死満塁、梅野は空振り三振に倒れる
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 西浦直亨の大飛球が左翼席に消えると、マウンド上、阪神・岩貞祐太の口が「マジで!?」と動いた。同点の延長10回表2死一、二塁、まさかの決勝3ラン被弾だった。

 初球のフォークだった。外角寄り高めと確かに甘かったが、フルスイングで仕留められたのは驚きだったろう。

 捕手・梅野隆太郎にとっても痛恨である。ピンチでの代打。タイムを取り、マウンドを訪ねて入念に打ち合わせした直後の1球である。打ち合わせにはベンチから投手コーチ・福原忍もまじり、助言を与えていた。初球の入りは特に注意を払っていたはずだ。

 <試合の後半、接戦で代打の切り札が出てきたとき>と野村克也が著した『野球論集成』(徳間書店)の配球論にある。

 代打は特殊だ。<前の打席を利用した配球ができない。それは打者も同じで、その日の打席で得た情報がない。だから、よほどの根拠がない限り、初球から変化球を狙うことはしない。変化球でカウントを稼ぐチャンスだ>。

 その変化球を一撃でやられたのだ。名捕手で、生前は「ホームランは防げる」と語っていた野村の教則本にもない、意外な被弾だと言える。

 それでも捕手は反省する。失投と投手に責任を押しつけはしない。捕手は常に内省的である。

 このところ、梅野は辛い日々が続く。この日は1―0の6回裏2死満塁で先発・青柳晃洋の代打で出て三振。直後の7回表、代打の広岡大志に2ボール2ストライクからチェンジアップを被弾し同点とされた。青柳の勝利投手を消してしまった。投げた岩崎優は直前まで18試合連続無失点中で決勝弾同様に「まさか」だった。

 10月30日DeNA戦(横浜)でも9回裏2死からホセ・ロペスにスライダーを同点2ランされている。相次いだ痛恨の被弾はすべて変化球だった。「直球だったら?」と問うのは愚問である。

 「タラレバ」は禁句にしたい。野球で「~してたら」「~してれば」を言い出せばきりがない。

 闘将と呼ばれた西本幸雄は本塁打を浴びると頭に血が上った。そして、捕手に必ず球種とコースを確認し「そうか」とつぶやき、そして「次やぞ!」と言ったそうだ。近鉄監督時代の側近、球団取締役も務めた梶本豊治から聞いたのを覚えている。「西本さんは“糧にしろ”、と前を向いていた」と語っていた。

 タラレバばかり言いながら悪戦苦闘する3人の女性を描いたテレビドラマ『東京タラレバ娘 2020』(10月7日放送)で、主人公の倫子(吉高由里子)は「タラレバをカラに換えればいいんだ」と悟る。

 もちろん、この日の敗因はリードばかりではない。4回裏1死満塁と2死満塁、6回裏の無死満塁と、満塁機で適時打を欠いた。得点は併殺崩れの内野ゴロであげた1点だけだ。

 1日のDeNA戦(横浜)でも5回表1死満塁、8回表無死満塁、9回表1死満塁をすべてフイにしている。決定打を欠く「満塁地獄」とでも呼ぶべき拙攻も大きな原因である。

 一流捕手への道を歩もうとしている梅野をはじめ、チーム全体にまだ経験を積む時間が必要なのだろう。いつか「あの経験があったカラ」と言える日が来るだろうか。痛切に身にしみる、大切な敗戦である。=敬称略=(編集委員)

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