【内田雅也の追球】開幕4連敗 ケラーと江夏が違うように、95年と今年では力が違う

[ 2022年3月30日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神2-3広島 ( 2022年3月29日    マツダ )

<広・神>9回1死満塁の場面でケラー(右)にかわりマウンドに向かう湯浅(撮影・奥 調)
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 あの『江夏の21球』で1点リードの9回裏無死満塁、ブルペンに救援投手が向かった時、マウンドの江夏豊は「なにしとんかい!」とつぶやいた。1979(昭和54)年の日本シリーズ第7戦(大阪球場)である。

 雑誌『Number』で活写した山際淳司は江夏の心情を書いている。<その内側にはプライドを逆なでされた投手の戸惑いと、不安、そして怒りにも似た感情がないまぜになって、在る>。

 その江夏はこの夜、テレビ解説者としてマツダスタジアムの放送席にいた。阪神が同じ1点リードの9回裏、カイル・ケラーが1死満塁を招き、監督・矢野燿大がベンチを出た時「え!?」と声が漏れた。任せたのなら最後まで任せろと思ったか。『21球』も江夏自身が招いた無死満塁だった。

 ただし、通算193セーブと、来日1年目、マイナーリーグで通算29セーブ、大リーグではセーブなしのケラーでは実績もプライドも異なる。

 既に書いてきたが、今のケラーでは力不足だ。パワーカーブはブレーキがきかず、今風に言えば「ピッチトンネル」を作れていない。スラッターも鈍いスライダーだ。何より空振りが取れない。

 だから、この夜は先頭の新外国人にもカーブに対応され右前打。上本崇司には12球も粘られ四球。長野久義の投ゴロは投球後の体勢が悪いため弾いた。捕っていれば併殺で試合終了だった。

 結局、ケラーの後に起用した湯浅京己が逆転サヨナラ打を浴びた。

 現状を見れば、ケラーをクローザーから外し、代役には湯浅を抜てきしたい。そう思っていると試合後、矢野がそのまま明言したそうだ。湯浅は伸びのある速球に鋭いフォークで将来のクローザー候補とみていた。逆転サヨナラ打を浴びてからの再起を期待する。

 敗れればミスも浮き彫りとなる。9回表の送りバント失敗、裏の送球落球は同じ中野拓夢だが好守もあった。外飛での一塁走者二進が2度あった。西勇輝はカウント3―2が実に8度という慎重な投球で粘っていた。

 開幕4連敗は1995年以来らしい。当時阪神担当キャップだっただけによく覚えている。だから書く。ケラーと江夏が違うように、95年と今年では力が違う。試合は毎日ある。前を向け、と書いておく。 =敬称略=
 (編集委員)

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2022年3月30日のニュース