【内田雅也の追球】ミスチルからの教訓――「一寸先は闇」の「平常心」

[ 2019年6月22日 10:47 ]

交流戦   阪神5―3西武 ( 2019年6月21日    甲子園 )

<神・西(1)>4回2死二、三塁、ピンチをしのぎ、ガッツポーズの西勇輝(撮影・北條 貴史)
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 浜風に乗って、アオスジアゲハが舞っていた。昼下がりの甲子園球場、阪神の試合前練習中のことだ。近畿地方はまだ梅雨入りもしていないが、風は梅雨明けを思わせる、乾いた白南風(しらはえ)だった。

 場内にはMr.Childrenのナンバーが流れ、銀傘に響いていた。練習中にミスチルが聞こえる日は阪神・西勇輝の先発である。

 西はよく投げた。6回で9安打も浴びながら3失点で試合を作った。立派なクオリティースタート(QS)である。この踏ん張りがあったからこそ、終盤、得意の救援投手の勝負に持ち込めた。そして競り勝てた。

 昨年までのオリックス時代、西武を苦手としていた。通算3勝(9敗)で、パ・リーグ相手球団のなかで最も勝ち星が少なかった。

 立ち上がり、いきなり長短打で1点を失った。なお無死一、二塁を背負ったが、変化球で連続三振を奪い、最少失点でしのいだ。

 4回表もピンチだった。バントをはさみ4打数連続安打で2失点。この間、わずか8球しか投げていない。ストライクをそろえすぎとの批判もあろうが、積極打法に向かっていく姿勢は覚えておきたい。しかも4安打はすべて単打にとどめ、崩れそうで崩れない。焦らず力まず、落ち着いていたのだ。つまり平常心でいたわけだ。

 試合前練習中、球団社長・揚塩健治、球団本部長・谷本修は大阪・野田の電鉄本社を訪れていた。定例のオーナー報告会である。オーナー・藤原崇起ら本社内にいる球団首脳に現状を報告した。6連敗で貯金を使い果たしたという辛い報告である。

 甲子園で記者に囲まれた谷本は「特段どうということはありません」と言った。「5割となり、またスタートです。一つ一つ積み重ねていくしかありません」。どん底に近い状態でもあわてず、落ち着いていた。

 大リーグの名フロントマン、サンディ・アルダーソン(現メッツGM)はシーズンを「一寸先は闇だ」と語っている。映画にもなった『マネー・ボール』の主人公、ビリー・ビーンの師匠と言える人物である。ロジャー・エンジェルの『球場(スタジアム)へ行こう』(東京書籍)にあった。

 「わたしがベースボールから学んだことが一つだけあるとすれば、それは極めてまれにしか笑うことはできないということだ」
 「悲しい話だが、どの試合を最後に勝てなくなってしまうのか、決してわからないというのが現実なんだ」

 「常に浮かれ過ぎず、落ち込み過ぎぬように、というベースボールの古い警句は、つまり平常心を保てということだ。いつだって一寸先は闇なんだから」

 今回の阪神も貯金6を記した12日ソフトバンク戦(ヤフオク)から連敗が始まるとは予想できなかった。だから「平常心」が肝要となる。

 登板した西の登場曲もミスチルの『Tomorrow never knows』だった。「誰も知ることのない明日へ」と歌っている。

 夏至の短夜。9日ぶりの白星で息をついた。平常心も取り戻せたことだろう。=敬称略=(編集委員)

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