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【全国ジャケ食いグルメ図鑑】函館で発見!明治息づくよろず角打ち

[ 2016年12月23日 12:00 ]

酒屋なのにいろんな物が売っている。昔はこういう「よろず屋」が多かった
Photo By スポニチ

 人気ドラマ「孤独のグルメ」の原作者、久住昌之さんが外観だけで店選びをする「全国ジャケ食いグルメ図鑑」。レコードの名盤には表のジャケットだけじゃなく、裏面や二つ折りになった中面の見開きにデザインの神髄を堪能する作品があったものです。そんな味わい深い“中ジャケ”のお店を北海道函館市で発見!大日本帝国陸軍とも縁のある老舗でした。

 コンビ漫画家として組んでいる和泉晴紀と2人で、冬の函館に取材に行った。

 その途中、時間が余り、向こうの担当の人が「一軒、昔ながらの角打ちやってる酒屋があるんですが寄りますか?」と言うので、それはもう喜んでと連れて行ってもらった。角打ちは、酒屋さんの一角で酒を立ち飲みさせてくれるところだ。最近の立ち飲みブームで、結構それらしい新店舗もできているが、ボクはあまり興味がない。でもそこは本当に昔の雰囲気そのままだという。それは行くしかない。それがこの「古西商店」だ。

 店前で車を降りたら「ここぉ?」というジャケット(店構え)。後で軒の上に看板があることを知ったが、ちらつく雪を避けるために軒下に入れば、何の店だかすら分からない。

 なんだろう、このシンプルさ。古いガラス戸に「塩」というシールが貼ってある。専売時代のものだろう。「秋田銀鱗 諸白麹 2kg¥580」と筆ペンでコピー用紙に書いたようなのが貼ってある。ガラス戸の内側には売り物らしい大きな鍋とヤカンが重ねてある。酒屋らしいのは、ガラス戸の内側に下がった黄色い「櫻正宗」ののれんだけだ。でも何か、どこかがボクの心の琴線に触れてくる。

 中に入って、おおっ!と思った。奥のレジのところに「秋田美酒 銀鱗」「灘 櫻正宗」という電飾看板がL字形に下がっている。その辺りがレジで、飲めるカウンターでもあるようだ。古い木の板看板は「日本魂」のように読める。その周りの雑然がいい。昔のLPジャケットだと、二つ折りになった「中ジャケ」が豪華、という感じだ。確かに、酒を売っている。だがいかにもカウンター、という感じはない。「ここで飲んでいいの?」という感じ。本物だと思った。おばちゃんが2人でやっている。

 「どれを飲んでもいいんですか?」と聞くと、「いいですが、一人2本まででお願いします」と言われた。長居するつもりはない。寒かったし、ビールのミニ缶を見つけて、和泉さんと乾杯。石油ストーブがついている。

 「今そっちのストーブつけたばかりで、音もね、匂いもするでしょ?」とおばちゃんが言う。ストーブは2つあった。函館だもの。石油ストーブの匂いがたまらない。BGMなんか、もちろん無い。店の中はシーンとしている。

 プシュッと開けてクイッと飲んだ。ウマイ。我々は午前中、取材でこの近所の谷地頭温泉に入ってきたのだ。よく考えたら風呂上がりの一杯。ウマイに決まっている。

 カウンターに柿の種。一袋60円。泣ける。それ以外無いのかなと思ったら、割り箸がある。店内をちょっと見ると缶詰がいっぱい売っている。鯖(さば)の水煮200円。さんま蒲焼(かばやき)170円。シブい。今の缶詰は缶切りがいらないから、シュパッと開けて、割り箸で缶から食べられる。スバラシイ。

 そしてふと入ってきたガラス戸の方を見て、その風情に唸(うな)った。店内から入り口付近を見た風景を僕は「裏ジャケ」と呼んでいるが、それが実にグッとくる。外は雪が降っている。その向こうを車が走り、さらに市電が通り過ぎる。店の内側の薄暗さが心地いい。このシチュエーションで、ちょいと一杯って。実際、あっという間にミニ缶を空けてしまった。気持ちとしては、ここで酒に変えたいところだが、取材途中なので我慢した。帰ってきて今、飲んでしまえばよかった、と猛烈に後悔している。

 酒屋といっても、店の中にはいろんなものが売っている。竹箒(ぼうき)や雪かきスコップ。ペンキ、お茶、ティッシュ、スリッパ、歯ブラシ、湯たんぽ。各種洗剤、調味料。いわゆる日常の生活用品が何でも売っている。昔はこういう店が多かった。特に地方には。かくいうボクの母の山梨の実家がまさにそうだった。当時は「よろず屋」といったものだ。懐かしい。同じ匂いがする。ストーブにあたって、冷酒をちびちびやりながら、ここにいつまでもいたくなった。

 帰り際に聞いたらおばちゃん2人は姉妹だった。この店は創業が1902年(明35)だという。お見それしました。今回はジャケットも良かったが、中ジャケ、裏ジャケがそれを上回る味を出していた。

 ◇古西商店(こにししょうてん)創業114年。帝国陸軍の御用達の売店「酒保(しゅほ)」として、日用品や嗜好(しこう)品を安価で提供していた時代があり、店内にはその名残も。北海道函館市谷地頭町25の15、函館市電・谷地頭駅から徒歩1分。(電)0138(23)1398。営業は午前8時〜午後7時、日曜定休。

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