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大腸がんの予防と早期発見 40代で急激に発症率上昇、発見遅れると完治難しい病気

[ 2023年8月21日 05:00 ]

南米の大腸がん国際会議で講演した際の一枚
Photo By 提供写真

 がん治療の最前線、米国で働く日本人医師が現場から最新の情報を届ける「USA発 日本人スーパードクター これが最新がん治療」。テキサス州ヒューストンにある米がん研究最大の拠点「MDアンダーソンがんセンター」で治療に取り組む小西毅医師による第8回は、大腸がんになりやすい食事、生活習慣についてです。

 大腸がんは、発見が遅れて全身に転移してしまうと完全に治すことが難しい病気です。私の勤めるMDアンダーソンがんセンターに、40歳の若い男性が腹痛を伴う大腸がんで緊急搬送されてきました。大腸がんが大きく育って大腸が閉塞してしまい、便が詰まって腸が破裂する寸前で搬送されてきたのです。聞けば「仕事も忙しく年齢も若いので、大腸検診など受けたことがない」「1年ほど前から時おり便に血が混じっていたが、もともと軽い痔(じ)があって主治医からも痔のせいだろうと薬を処方されていた」とのことで、大腸カメラなどの精密検査は受けていなかったようです。

 残念ながら、大腸がんはすでに肝臓や肺など全身に転移していました。この状況では手術で完全にがんを取り切ることはできません。緊急手術で人工肛門を作ってなんとか腸破裂は免れました。しかし、その後はがんの進行による栄養不良や感染のため、抗がん剤治療も思うように進まず、1年ほどで亡くなってしまいました。

 40歳前後の若い患者さんがこのような形で命を終えるのはつらいですが、実はこのようなケースは珍しくありません。大腸がんは30代から徐々に増え始め、40代になると急激に発症率が上がります。

 大腸がんの発症には食事、生活習慣、遺伝などさまざまな要因が関与し、最近では特定の腸内細菌の関与も分かってきました。日本は世界的に見ても大腸がん発生率が高い国の一つです。本日は大腸がんの予防と早期発見にはどんな注意が必要か、解説します。

 大腸がんは欧米型の食事が発症に関与します。とくに赤身の肉類(牛、豚、羊)や加工肉(ハムやソーセージ)を大量に摂取する偏った食生活は、腸内環境を変化させて悪玉の腸内細菌を増やし、二次胆汁酸などの発がん物質を生成します。便秘は有害物質をさらに大腸に停滞させ、リスクを高めます。

 便秘を解消するために食物繊維を豊富に取ることが大事です。日本人は伝統的に海藻、野菜から豊富な繊維を摂取し、また肉以外の魚や豆腐などのタンパク質を中心とした和食を食べ、良好な腸内環境を保っていました。肉を食べること自体は悪くなくて、日本人の平均肉類摂取量である60グラム程度であれば問題ありません。しかし1日平均100グラムを超える肉類を毎日摂取すると、大腸がんリスクが上昇するというデータがあります。自分の食生活を見直す際に一つの目安としてください。

 肥満は大腸がんのリスクを2割から5割ほど増やすことが知られています。一方、定期的な適度な運動は、肥満や便秘の解消につながり、大腸がんのリスクを下げます。喫煙は大腸がんだけでなく、肺がん、食道がん、膀胱(ぼうこう)がんなど多くのがんの原因となりますので、がん予防の観点からは禁煙すべきです。飲酒は少量であれば問題ありません。しかし、1日お酒1合(ビールなら大瓶1本、ワインならグラス2杯)を超えると大腸がんのリスクが上昇します。

 米国は車社会で運動不足が社会的な問題です。米国の保険会社は加入者ががんになると治療に必要な支出が増えるため、がんを予防するキャンペーンを広く行っています。例えば、加入者へ無料でジムでの定期的な運動や、食事管理プログラムへの参加を提供しています。

 大腸がんは遺伝子の傷から発症するため、遺伝的に大腸がんになりやすい体質の人がいます。親や兄弟などの近親血縁者に大腸がんがいる場合、発症するリスクは上昇します。特に50歳以下の若い年齢で大腸がん、胃がん、子宮体がん、尿路がんなどを患った近親者が複数いる家系は、リンチ症候群というまれな遺伝性大腸がん家系の場合がありますので、注意が必要です。

 健康な食事や生活習慣は理想的ですが、現実では忙しく毎日を過ごす中で、ついつい不健康で運動不足になることは避けられません。おいしい肉を食べ、お酒を飲むことも人生の楽しみの一つです。どんなに予防に努め健康的な生活をしていても、がんにかかることはあります。ですから現実的には、予防以上に、定期的な検診を受けて早期発見、早期治療を目指すことが大事です。

 日本で多く用いられる便潜血検査キットは、世界的に見ても感度が高く、2度の排便を用いる便潜血2回法により進行大腸がんの8割を検出できます。大腸がん発症リスクが高い食事、生活習慣を送っている人は、とくに便潜血検査を受けることが大事です。

 便潜血が一度でも陽性になったら、放置せず大腸内視鏡による精密検査を受けるべきです。大腸がんの初期症状である血便、排便異常(細い便、頻便など)、排便時の腹痛などが軽くても、一定期間続く場合も、内視鏡を受けるべきでしょう。

 次回は米国の再発大腸がんの治療について解説します。


 ◇小西 毅(こにし・つよし)1997年、東大医学部卒。東大腫瘍外科、がん研有明病院大腸外科を経て、2020年から米ヒューストンのMDアンダーソンがんセンターに勤務し、大腸がん手術の世界的第一人者として活躍。大腸がんの腹腔鏡(ふくくうきょう)・ロボット手術が専門で、特に高難度な直腸がん手術、骨盤郭清手術で世界的評価が高い。19、22年に米国大腸外科学会Barton Hoexter MD Award受賞。ほか学会受賞歴多数。

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