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【さくらいよしえ きょうもセンベロ】東京・荻窪「やきや」 原点で1杯イカが?

[ 2019年9月13日 12:00 ]

<荻窪「やきや」>おかみさんと元高校球児のお孫さんが二人三脚で経営(撮影・西尾 大助)
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 イカを肴(さかな)に一杯。残暑の中に秋の気配が感じられる東京・荻窪を訪れたライター・さくらいよしえ。訪れたのは「やきや」。“センベラー”原点回帰の名店で、立ち飲んだ。

 15年前、わがセンベロ人生はここからスタートした。子供の頃から、大のイカ好きだった。そんなわしの前に、降臨したイカ専門の立ち飲み店。

 創業は20年前。青森出身のダンディーな大将とクールビューティーなおかみさんの二人三脚で始まった。

 青森・八戸から直送されるスルメイカ。

 みずみずしい大葉添えで出てくるイカ刺しに、こりこりした桜色のミミ刺し。太いイカゲソや柔らかなイカなんこつは、切れのあるタレで焼き上げる。どれもこれも落涙するほどおいしい。その上、全部200円!

 絶品の自家製塩辛を冷ややっこにのせたり、イカのわたあえのたれをイカの練り物につけたり、皆独自のマリアージュもひそかに編み出し楽しんでいる。

 「ここに来ると、ああ今日もこんなに幸せに飲ませてくれてありがとうって思うんだよ」「私も」「僕も」と皆でうなずきあう。

 誰もが酔っても背筋をなるたけピンと伸ばし、去る時にはよろけながらも卓を拭く。少しでも良い客と思われたい。お店と相思相愛になりたい。そんな思いである。

 ある時、お会計で福沢諭吉を出した客に、店内が静かにざわついた。

 「1万円札は、うちじゃ通貨じゃありませんよ(笑い)」とおかみさん。ここで歓迎される紙幣は1000円札だ。学習した。

 そしてまたある時は、店外で並ぶことは「ナンセンス」と知った。それより先客が「斜め立ち」で隙間をつくり、譲り合うチームプレー。

 ありがとう、と思う「心」。釣り銭がないようにぴったり会計をする「技」。そしておなかをへこませスマートに飲む「体位」。素晴らしき桃源郷の心技体。

 本日、久々の訪問だ。店の次世代を担うニューフェースがいた。元高校球児のお孫さんである。

 内野手らしい俊敏な動きで“守備”も上々、古参の常連に「今、仕事現場はどこですか。自転車通勤で、車あおったりしてんすか」といじっている。「ふほほ~。ママチャリで安全走行だよ」とうれしそう。

 イカは今高騰し、創業時の2倍になったとおかみさん。特に昨今は不漁が続き、仕入れも厳しい。

 「でも大将はもうけなんか計算しないから。たくさんの人に来てもらえたらって考える人だから、いいんですよ。それより久しぶり、元気そうね」

 おかみさんのほほ笑みが、ただただうれしい。ここで生まれたせんべらーの里帰りなり。(さくらい よしえ) =この項おわり=

 ◆やきや 午後4時の開店と同時にお客さんでほぼいっぱい。鮮度抜群の青森県産スルメイカが店のウリだ。おかみの関屋さち子さん、焼き方も担当する孫の海都さんが客の注文をキャッチ&リリース。いたずらに騒ぐ、酔い乱れる客はここにはいない。立ち飲みだが店奥の椅子席は先着順。人気がある。東京都杉並区荻窪5の29の3。営業は午後4時から11時。日曜定休。電話番号は非公開。

 ◆さくらい よしえ 1973年(昭48)大阪生まれ。日大芸術学部卒。著書は「東京★千円で酔える店」(メディアファクトリー)、「今夜も孤独じゃないグルメ」(交通新聞社)、「きょうも、せんべろ」(イースト・プレス)など。

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