【元NHKアナ小野塚康之の一喜一憂】やる気MAX“作新”野球

[ 2019年8月12日 05:30 ]

第101回全国高校野球選手権 第6日2回戦   作新学院5―3筑陽学園 ( 2019年8月11日    甲子園 )

<筑陽学園・作新学院> 延長10回無死二塁、気迫のヘッドスライディングで三盗する作新学院・福田 (撮影・亀井 直樹)
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 「最後1点リードして勝つ。失点はしますから、毎回最小限に止めて10対9、そんなスコアでもいいです」と口元を少しだけ緩めた。全国制覇の経験を持つ青年監督、作新学院(栃木)・小針崇宏(36)の甲子園の夏がスタートした。

 作新学院が3―1とリードして9回裏、筑陽学園(福岡)の攻撃。2死無走者から連打で一、二塁、この反撃ムードに一塁側アルプスからチャンステーマがボリュームを上げながら繰り返し鳴り響く。ここまで好投が続く背番号「1」右腕の林勇成が迎えた最大のピンチで左打席には今日、好調の8番石川湧喜。力を込めて腕を振った林の128球目。石川のバットが鋭く一閃する。

 快音とともに打球は自軍応援団の目の前を高々と飛んで行き、ライトオーバーとなる2点タイムリー二塁打。土壇場で追いつき、白とブルーで埋め尽くされた一塁側大観衆から歓喜の拍手が沸き起こり、作新学院ナインを圧倒する。

 何とか後続を断つが「流れ」は完全に筑陽学園に持って行かれた。試合後半は打線も力のある右の本格派エース・西舘昂汰に7回からパーフェクトに抑えられていた。延長10回表、作新の攻撃に入る。

 周囲の心配をよそに小針監督の表情は冷静そのものだった。「一喜一憂」などしない。

 「今年は3年前の優勝時に比べればチームの実力も低いですし、大型選手もいないので守備と走塁を重視して取り組んできました。ただし、栃木大会決勝から今日の試合まで時間があったので、弱い部分の打撃などを強化して、一人一人が集中して強く振ることや投げることは出来るようになりました。攻めの姿勢を徹底して来ました。調子は上がっています」

 えーっ、それって凄いことだよな。どの監督もそうありたいって思っているけど、そうはいかなくて甲子園で崩れていくチームは山ほどあるもんなぁ。そういえば小針さんて選手とのコミュニケーション上手だから、この時間をうまく使って一人一人と気持ちを通わせ、戦う一体感を共有したんじゃないかなぁ。いろんな要素があって甲子園では試合中の選手と監督の距離が遠くなりやすいそうだからね。緊張とか興奮とかあるからさ。
 これは“小針監督の強み”だな!

 調整期間があったおかげで最も適性のある福田真夢を1番に起用。話し合いもして福田がこの打順を打ちたいことを確認し、小針さんの望むことも伝えたと。そのうえ下位に回っていた松尾翼を2番に戻して、ベストのコンビが実現できたのだそうだ。松尾も福田と連動したかったって。打順を決めつけずにフレキシブルに考える小針監督の柔軟性が生きてるなぁ。

 1回表。いきなり福田が初球、積極的にセンター前にヒット。勢いよく一塁ベースに達する。2番松尾は2球目をライト前へ逆らわずにはじき返す。無死一、二塁。3番中島義明は緩いショート前のゴロ。二人の走者が打球とともに素早いスタート。守りはこれも気になっての?エラー。無死満塁。4番石井巧がライトへ打ち上げる浅いフライ。三塁走者福田がスタートを切り、スピードに乗ってホームイン。犠牲フライでの先取得点となった。

 この時もバックホームの送球の間に、他のランナーはきちんと進塁していた。いやホントにシンクロするように同じタイミングでスタートして、同時に次の塁到達だった。小針監督が言っている通り、試合開始から集中し、強く速いプレーを積極的に展開している。“攻めれば有利にゲームを運べる”とバントは簡単にはしない。1回は1点だけだったが作新学院のハードに攻めて来る姿勢を印象付けるに十分な攻撃だった。

 「試合は前半重視です。3回までにいかに主導権を取れるかです。失敗もしながらプロセスで攻め込んでいきたいです」

 どういうことかっていうと成功を前提とするが、失敗してもいいから仕掛けるってことだよね。で、その後はまた使ってもいいし“やるぞやるぞ”って思わせぶりも出来るしね。それを3回に出したわけさ。

 1回と同じ打順。1番の福田、2球目を捉えてまたレフト前ヒット。無死一塁。ここで仕掛ける。2番松尾の初球、一塁走者福田がスタート。打席の松尾は高めのボールゾーンの変化球を空振り、二塁に滑り込んだ福田は間一髪セーフの盗塁成功。そして、松尾のショートゴロ悪送球で一塁、三塁。続く3番中島の犠牲フライで福田はホームイン。2点目だ。

 ここでのポイントは盗塁成功になったエンドラン失敗だ。作戦としてはヒットエンドランだからミスだったんだけど福田の速さに救われた。得点にもなった。小針監督の意図と違いながら、指示していない別の好結果が生まれたわけだったのだ。ヒットエンドランは、また使える作戦として残り、その戦術の失敗をカバーするほど福田の「足」はさえているのだった。
 これが失敗しながら攻め続ける“プロセスで攻める”ですよね、小針さん!どこかでまた使えるのだ。そして10回にやって来る。

 「すぐ攻めよう!」

 えーっ!これが10回の攻撃前の号令ですって。やまびこ打線の池田蔦文也監督の「ボチボチ行こか!」以来に聞いた唐突な一言だ!

 10回の攻撃は“つぶやき実況”しときます。

 3対3の同点。延長10回の表追いつかれた作新学院。7、8、9回と3人ずつピシャリと抑えられています。流れは完全に筑陽学園。自信にあふれる大柄な右のオーバーハンド西舘、ここまで135球の力投。バッターボックスには今日2安打の1番福田。マウンド上の西舘、右のオーバーハンドから第1球投げました。

 変化球ストライク。中盤から低めに良く決まっています。先頭を出したい作新学院、抑えたい西舘。ノーワインドアップから第2球を投げました。速球ボール、カウント1―1。10回の表先頭小柄な、しかしスイングの鋭い福田が右のバッターボックス。第3球を投げました。打ちました。三遊間のゴロ。サード、ショート追いつかない、抜けた、ヒット。ノーアウトランナー一塁、延長10回の表勝ち越しのランナーが出ました。

 作新学院、実に6回以来のランナーです。福田は3安打、3回の攻撃では盗塁も決めています。ここはどうするのか三塁側の小針監督、ダッグアウトホームベース寄りに立ってサインを送ります。打席には2番の松尾、右打ち、ここまでまだ送りバントは作新学院にありません。栃木大会でもわずか4個。でも、ここはどうか、延長10回の表ノーアウトランナー一塁。西舘、セットポジションから第1球を投げました。

 一塁ランナー走った!見送ってストライク、キャッチャー二塁へ送球。ランナー滑り込むショートがタッチ、セーフ、セーフ、セーフ、盗塁成功。

 驚きました。勝負をかけてきました。小針監督の選択はスチールだぁ!さぁノーアウトランナー二塁。今度は送るか、打席は2番松尾、三塁へ進めて得点に結び付けたいところ。西舘、セットポジションから第2球を投げました。

 見送ってボール。バントのしぐさはありません。小柄な、バントも得意な松尾、ノーアウトランナー二塁。俊足・福田がリードを取る。3対3の同点、第3球を投げました。

 ストライク。ここもバントの気配なし。うーん、ベンチの狙いは?松尾はヒッティングの構え。バントはしにくいカウントになりました。ここから送ることもあるのか。マウンド上の筑陽学園、西舘第4球を投げました。

 ボール。ここも見た。見ました。ボールカウント2―2。さあ打って進めるのか。少し間合いを取ってピッチャーに右のオーバーハンドの西舘。第5球を投げました。

 二塁ランナー、スタートだぁ!空振り三振。三塁へ送球タッチ、セーフ、セーフ、セーフ、セーフ、セィーフッ!三盗決まりました。まさかの二盗、三盗、福田の足でチャンス拡大。1死三塁。

 3対3の同点10回の表、作新学院の攻撃。筑陽学園大きなピンチ、キャッチャーがマウンドに行きます。内野は極端な前身守備、バックホームの態勢です。ショート、セカンドも、もうマウンドのすぐ後ろあたりの浅さ。俊足・福田が三塁ランナー。絶好のチャンス作新学院。左の中島がバッターボックス。ジーっと西舘に視線を送ります、サインが決まって西舘セットポジションから第1球を投げました。

 打ちました。ゴロだマウンドの後ろ抜けた、センターに転がる。福田ホームイーン!4対3勝ち越し……………(中略)

 試合終了。延長10回5対3、作新学院が筑陽学園を下しました。力のある両チームの見応えのあるゲームでした。緻密なチーム作り、大胆采配で、作新!会心!令和発進!

 試合後、小針監督の控えめな笑み。「選手に勝たせてもらいました。この夏、こんな勝ち方がしたかったです」

 ◆小野塚 康之(おのづか やすゆき)元NHKアナウンサー。1957年(昭32)5月23日、東京都出身の62歳。学習院大から80年にNHK入局。東京アナウンス室、大阪局、福岡局などに勤務。野球実況一筋30数年。甲子園での高校野球は春夏通じて300試合以上実況。プロ野球、オリンピックは夏冬あわせ5回の現地実況。2019年にNHKを退局し、フリーアナウンサーに。(小野塚氏の塚は正しくは旧字体)

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