【内田雅也の追球】「青信号」廃止した岡田野球 初球に走らせた2つの盗塁の意図

[ 2023年4月29日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神4-0ヤクルト ( 2023年4月28日    神宮 )

6回1死一塁、中野は二盗を決める(撮影・北條 貴史)
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 青々とした若葉がまぶしい新緑の季節である。緑の葉だが青葉と呼ぶ。青りんご、青野菜……古来、日本では緑を青と呼んできた。信号機の緑に光るのは青信号。だから「グリーンライト」は青信号の意味である。

 野球では打者3ボール―0ストライクでも常に打って良しの場合と、走者にいつ走ってもいい状態を指す。今は盗塁フリーの意味を考えたい。

 昨年まで阪神は常に青信号が灯っていた。監督の矢野燿大(本紙評論家)が選手の判断に任せ積極性をうながした。チーム盗塁数は4年連続でセ・リーグ最多。この走力が大きな強みだった。

 昨秋に監督復帰した岡田彰布は、この青信号方針を廃止した。「グリーンライトなんかない。(前回監督時代)任せていたのは赤星(憲広=本紙評論家)だけだった」。今春のキャンプで「盗塁はサイン」を徹底した。

 だから、この夜2個の盗塁もベンチからのサインである。ともに初球に決めた二盗だが、その意図や内容は少々異なっていたとみている。

 3回表2死一塁、打者・木浪聖也の初球に佐藤輝明が走ったのは「ジスボール」(次の球)で決行の指示だったとみている。佐藤輝の盗塁を相手はさほど警戒していない。さらに失敗しても構わない場面だった。好機でもない2死一塁をつぶしても悪影響は少ない。

 佐藤輝は二盗に成功した。早くも今季3個目ですべて「ジスボール」ではなかろうか。2死二塁となったので木浪は申告敬遠となったが9番投手の大竹耕太郎まで打順が回り、次の回は1番からの好打順をつくれた。

 6回表1死一塁からの中野拓夢の二盗は「いける時に走れ」だったとみている。サインによる青信号である。追加点がほしく、二盗を決めてもらいたい場面だった。

 中野が初球に決めたのはさすがだ。中継ぎ投手でふだん対戦の少ない小沢怜史でも研究を積んでいたのだろう。2死後、大山悠輔の適時打で貴重な追加点につながった。

 映画にもなった『マネー・ボール』の主人公ビリー・ビーンは盗塁に否定的だった。分析上、成功率70%を超えないと得点力が上がらないとして「走るな」と命じた。

 ただ“走る”阪神が素晴らしいのは昨季の成功率が75・9%。今季も14盗塁(リーグ2位)、盗塁死6で70%と、盗塁で得点力を高めていることだろう。 =敬称略=
 (編集委員)

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