【内田雅也の追球】金言の「本塁は動かない」 走者背負ったときの涌井の制球を冷静に見極めた阪神打線

[ 2023年5月18日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神3―1中日 ( 2023年5月17日    バンテリンD )

<中・神>4回2死満塁、島田は押し出し四球を選ぶ(撮影・大森 寛明)
Photo By スポニチ

 阪神の先制点は4回表2死一塁から3人連続で選んだ四球で奪ったものだった。中日・涌井秀章は制球力に定評があり、今季もこの試合前まで6試合に登板し、与えた四球は6個だけ。1試合1個の勘定だった。

 涌井は走者なしでは左足を上げ下げする2段モーションで投げる。監督・岡田彰布は「1人出ればと思っていた。走者がいると、あんな投げ方できんからな」とみていた。3回まではパーフェクトに抑えられていたが、2死からシェルドン・ノイジーが安打で初めて出塁し、1段モーションになると制球が乱れた。

 とは言うものの、阪神打者の選球眼、悪球に手を出さない自制心はたたえたい。この夜の5個を加え、チーム四球数は依然リーグ最多の132個。幾度も書いてきたが、四球を奪う姿勢が大きな強みとなっている。

 なかでも2死満塁から島田海吏が選んだ押し出し四球は値打ちがある。なぜなら、涌井は今季、フルカウントになったことが過去14度あり、四球を与えたのは1度だけ。しかも12打数無安打(犠飛1)に抑えていた。フルカウントでは無類の強さを発揮していた。

 島田は外角低め149キロ速球を見極めた。打ちにいきながら、投球が捕手のミットにおさまるまで目線を送っていた。

 右翼はいまだ定まらず、ヨハン・ミエセス、小野寺暖、井上広大、2軍では森下翔太、前川右京らがその座を狙う。激しい競争のなか、起用された選手たちの懸命な姿勢が伝わってくる。

 また、4、5回の得点はいずれも2死無走者からだった。「野球は2アウトから」である。

 さらに書けば、4回の佐藤輝明四球はカウント0ボール―2ストライクから、島田四球は1―2から、5回の近本光司、中野拓夢連打はともに追い込まれてからだった。

 史上最高の投手と言われるサチェル・ペイジは無類の制球力を誇り「ホームベースは動かない」は名言で知られる。自分を見失わなければ大丈夫という自信があった。

 同じ言葉を岡田がキャンプ中に言った。打者陣を集め「ホームベースは動かない」と諭した。「2ストライクになってもストライクゾーンは変わらんのやで。ホームベースは動かんのやから」
 あれは金言だったか、追い込まれてもあわてない冷静さが備わってきた。「野球は2ストライクから」と言える粘りが光っていた。=敬称略=(編集委員)

続きを表示

「始球式」特集記事

「落合博満」特集記事

2023年5月18日のニュース