【内田雅也の追球】主将が示した敢闘姿勢――連敗の阪神で糸原が見せた“負け方”

[ 2020年6月21日 07:00 ]

セ・リーグ   阪神1―11巨人 ( 2020年6月20日    東京D )

9回、二盗を決める糸原
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 大量10点ビハインドの阪神、9回表2死。打者・近本光司の初球、一塁走者・糸原健斗が二塁に走った。捕手からの送球をかいくぐってセーフ。公式記録員は「盗塁」と記者席に放送した。

 一塁手はベースから離れ、点差は10点。普通は「守備側の無関心」で盗塁は記録されない。プロ野球では2008年から採用されたルールだ。ただ、捕手は二塁送球したため、盗塁がついた。

 勝敗に限れば、盗塁に意味はない。糸原も盗塁が記録されるなど思っていなかったろう。

 ムダな走りか。いや、敗戦は覚悟した上で「明日に向けてできることは何かないだろうか」と考えた時、前を向いて走る敢闘姿勢は理解できる。

 直接的には、二塁封殺というゴロアウトの可能性を消し、少しでも安打の可能性を広げられる。打者は開幕2試合8打数無安打の近本だった。誰しもシーズン初安打が出るまでは不安と焦燥にかられる。二塁に進めば、「H」ランプを灯す手助けになる。

 もう一つは精神的なものだ。4番打者ジャスティン・ボーアが2度の2死満塁で凡退するなどブレーキとなった。継投は連日裏目と出た。結果は惨敗である。沈滞した空気を何とか打ち破りたいと、主将の糸原は考えたのではないか。それがあの盗塁に見えた。

 糸原は途中出場から二塁についた7回裏、緊張と重圧で苦しむマウンドの新人・小川一平に駆け寄り、激励している。あの後、無死満塁から前夜、逆転決勝弾の吉川尚輝に対し、被弾と同じ内角速球で勝負に挑み、空振り三振に取った。あの気概は糸原が伝えたものではなかったか。

 糸原は9回表先頭の打席で今季初安打となる中前打を放ち、一塁上から三塁ベンチに向け、右こぶしを振った。10点ビハインドでのガッツポーズは空しく、恥ずかしいことだろうか。陰での冷笑こそ戒めたい。こんな敢闘と不屈の姿勢こそ、今の阪神が目指すものだ。

 「うれしい時は思い切り喜んで、苦しい時は、もっと楽しんで」と語った監督・矢野燿大の言葉にうそはない。以前も書いたが「楽しむ」は英語の「enjoy」だ。楽しいことに加え、苦しいことも自分の経験として受けいれる。「享受する」という意味である。

 長いシーズンをかけて戦うプロ野球は負けても明日がある。ならば、いかに負けるかという“負け方”が問われる。一つのあり方を、主将の姿に見た気がした。=敬称略=(編集委員)

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