星稜準V 聖地512球熱投の奥川「神様の課題」を胸に「上の舞台でもう一回、甲子園に立ちたい」

[ 2019年8月23日 05:30 ]

第101回全国高校野球選手権大会 決勝   星稜3-5履正社 ( 2019年8月22日    甲子園 )

表彰式で涙を見せる星稜・奥川(撮影・北條 貴史)
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 初優勝を懸けた履正社(大阪)と星稜(石川)の決勝は5―3で履正社が制した。大阪勢は昨年の大阪桐蔭に続いて2年連続、14度目の全国制覇で、都道府県別で最多を更新した。95年以来、24年ぶりの決勝となった星稜は石川県勢、北陸勢初制覇の期待がかかったが、奥川恭伸投手(3年)が11安打5失点と打たれた。それでも準決勝まで防御率0・00と圧倒的な投球は、日本全国に感動と衝撃を与えた。

 奥川は試合後、すがすがしい表情で「ここまでみんなで来られて良かった」と笑った。だが、閉会式に向かう直前、三塁ベンチ後方から聞こえた「頑張ったな」の声で奥川の涙腺は決壊した。「込み上げてくるものがあって…」。声の主は宇ノ気中時代の恩師・三浦隆則監督だった。感情が抑え切れない。閉会式中も、大粒の涙は止まらなかった。

 先制直後の3回。2死から今大会初の連続四球で一、二塁とすると、履正社の4番・井上に対して痛恨のミスを犯した。「テークバックする時、足に(右手が)ぶつかった。自分の力み。あれは悔しい一球だった」。今大会通算426球目。制球しきれなかったスライダーをバックスクリーン左へと運ばれ、初めての自責点を記録した。打線に追い付いてもらった直後の8回には4安打で2失点。センバツで17奪三振完封した相手は違った。「どうにもならない。どうやって投げたらいいだろう…」と心は折れかけた。9回、126球目にこの日最速の153キロを計測したのは意地だった。それでも「低めの見極めが春と全然違った。初回から捉えられていた印象。打者の圧を感じた。素直に負けを認めたい」と潔く言った。

 奥川は閉会式後、マウンドへと向かった。「ここまで来られて幸せだった。甲子園にも、ありがとうという思いだった」。延長14回165球を投げ抜き、23奪三振を記録した3回戦・智弁和歌山戦。翌日、甲子園への移動中に偶然、同校宿舎前で帰途に就くため、バスに乗り込む智弁和歌山ナインに遭遇した。相手はバスから降りて手を振ってくれた。準々決勝で対戦した仙台育英ナインは、温かい拍手を送ってくれた。ライバルであり同志の汗と涙が染みこんだマウンドの土を、右腕は大事に持ち帰った。

 今後の進路については「話し合いながら」としながらも「また野球の神様が与えてくれた課題なのかなとプラスに捉えて精進したい。上の舞台で野球をして、もう一回、甲子園に立ちたい。もっともっと大きくなった姿で戻ってきたい」と力を込めた。悲願の優勝はならなかった。だが、令和初の甲子園の主役を張ったのは間違いなく奥川だった。みんな打倒・奥川に燃えた夏だった。(桜井 克也)

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