【元NHKアナ小野塚康之の一喜一憂】奥川に見えた星稜の集大成

[ 2019年8月23日 05:30 ]

第101回全国高校野球選手権大会 決勝   星稜3-5履正社 ( 2019年8月22日    甲子園 )

ナインとともに笑顔で記念撮影に納まる星稜・奥川(後列右から2人目)(撮影・北條 貴史)
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 履正社の試合運びは素晴らしかった。初優勝の真紅の大優勝旗を手にするに相応しい、攻守兼ね備えた強豪チームだと感じた。あと一歩及ばなかった星稜に涙だが、内容的には遜色ない。決勝戦の中心は星稜だった。「星稜を倒すには?奥川を攻略には?」。焦点がそこに行き着いた時点で全国のトップレベルに肩を並べたという事だ。誇らしい。私はNHK時代、4年間金沢に勤務した。その間1度も甲子園に出場することがなかった。昭和の最後、苦しい時代を目の当たりにさせてもらった。山下智茂前監督が全国制覇を掲げて何度も挑んだが、到達することはなかった。しかし今年の星稜は違った。

 私の眼に映った『令和』の星稜は強かった。全国の、どの代表校と比べても。“北陸の剛腕”小松辰雄や“ゴジラ”松井秀喜がいたころよりもずっとずっと。それはチームとして実力が付いたからである。

 「どんな風に実力がついたの?」と問われれば
 「奥川の影響だ!」と答え
 「そりゃそうでしょ!150キロは超えるし、変化球は多彩だし、彼がいれば強いでしょ」と切り返されれば
 「桁違いなのは奥川のフォアザチームのスピリット。これこそがチームを変えた」と力説したい。

 それは準決勝の2つの場面にそれは集約されていた。

 6回、中京学院大中京の攻撃。6対0星稜リード。マウンドには今日も好投奥川。ここまで試合開始直後に先頭の高畠にシングルヒットを1本を許しただけ、その後打者15人、連続アウトと全く寄せ付けません。

 味方打線が1、2回に得点を挙げ、奥川の投球を楽にしています。右のバッターボックスには中京学院大中京、途中からリリーフで出場している大柄な赤塚。奥川、胸の前、黒いグラブを合わせて、セットポジションの形から第1球を投げました、打ちました。ファウル、一塁側の内野席、147キロの速球に振り遅れました。

 外野はかなり浅め、右寄りにシフトを取っています。キャッチャー山瀬から返球を受け取って、身長1メートル83の奥川、首を捻って向こうむき。長い右腕を大きく振って、声を出しながらライトの岡田にさらに右に寄るように指示を出します。

 小走りに岡田が動いてライン寄り。マウンド上、キャッチャーに向き直って奥川、プレートを踏んでセットポジッション、第2球を投げました。アウトコース、ボール、143キロ、コースは一杯、高目に少々浮きました。

 ワンボールワンストライク、テンポよくバッテリーのサインが決まった。山瀬のキャッチャーミットはアウトロー、黄色のユニフォーム、胸に漢字で「星稜」。奥川、左ひざを高く上げて、第3球を投げました。速球、ミットに吸い込まれる、ストライク、144キロ、低めきっちり、気持ちの良いコントロール。ワンボールツーストライク、追い込みました奥川、ランナーはいませんが、セットポジションの形から腕をしなやかに振って投げ込んできます。踏み出す歩幅はそれほど広くなく、角度も生かしてリリースします。きりっと引き締まった表情、力強い視線を赤塚に送って、第4球を投げました。アウトコース低め、“ボォールゥッ!”144キロ、ギリギリ、本当に際どい、ボールひとつ、いや半分、いやいや四分の一くらいか?赤塚、見送ったのか、手が出なかったのか、球審尾崎も力を込めて、低い姿勢でボールの判定、ツーボールツーストライク、8番のピッチャー赤塚、オープンスタンスでベースから少し離れて構えています。

 ちょっと間合いを取って、右のオーバーハンドの奥川、追い込んで投球5球目、この回の先頭赤塚、グリップエンドいっぱいのバット、第5球を投げました。アウトコース空振り“さんしーん!”これもコースいっぱい143キロ。計ったように同じコース、同じ低さ、同じスピード3球続けました。

 初球147キロで相手の実力を見切ったように、当たってもライトのポジションまでしか飛ばないというコースに投げ切りました。スピードをややセーブして打たせて取ることに徹したようですが、それでも速い!速い!結果はキレが勝って三振。“その集中力、恐るべし”です。

 下位打線に全く緩むことなく逆に締めてかかります。自分の投球の意図をナインに伝え実現する技術・精神力、巨人の菅野智之にイメージがダブります。“星稜愛”溢れる投球です・・・・・・・

 6対0星稜リード、7回の裏。星稜の攻撃ツーアウトランナー二、三塁。右のバッターボックスに8番ピッチャーの奥川。守る中京学院大中京のマウンドにはサウスポーの不後。本来はクリーンアップの奥川、今日は疲労も考慮されて、下位打線に入っています。ピッチャー不後プレートを踏んでセットポジッション、第1球を投げました。カーブ、ボール。ワンボールノーストライク、この大会の奥川はまだヒットがありません。トータル10打数ノーヒット。1本欲しいところ。星稜としてもこの試合6点を挙げていますが、4回以降チャンスを作りながら追加点がありません。6回の裏ツーアウト二、三塁のチャンス、ピッチャー不後セットに入りました。第2球を投げました。速球、低め、ストライク、奥川見送りました。

 ワンボールワンストライク。奥川、過去3打席は“送りバント”に“フォアボール”“センターフライ”で4打席目。バントは1球で決め、フォアボールで出塁すると積極走塁を見せ、凡打の打席でも盗塁を助けました。

 無駄な打席はありません。マウンド上は中京学院大中京エースナンバー不後、サウスポーから第3球を投げました。速球、低め空振り、捉えられません。奥川、悔しそうな表情を見せました。

 カウント、ワンボールツーストライク。打席の奥川、あっと!バットを短く握り直しました。今日は最初の打席から短めにしていましたが、さらに極端です。軽くスイングして構える奥川、6対0リードの星稜7回の裏、ピッチャー不後、第4球を投げました。外側、低目打ちました、打ち上げた。ライトの前、ライン寄り、面白い所、セカンドが下がる、ライトが前進、セカンドバック、ライト前進、セカンドが追う、ライト出る、落ちた、ヒット!三塁ランナーホームイン。二塁ランナーも帰って来る、セカンドが向こうむきようやく追いつく。

 奥川二塁へ2点タイムリーツーベース。8対0星稜追加点を上げました。奥川ニッコリ嬉しそう!決して会心の打球ではありませんでしたが食らいつきました。工夫しました。決めました。価値ある甲子園初安打!・・・・・

 8回の表、守る星稜、ピッチャーが変わります。マウンドに左腕の寺沢です。レフトに奥川が回ります。奥川がベンチを飛び出し軽快に緑の外野のポジション向かいます。その背中に役割を果たし、寺沢に任せる信頼感が溢れています。・・・・

 寺沢、第4球を投げました。打ちました。セカンドゴロ、福本が捕って1塁へ送球、アウト、スリーアウト。星稜、9対0中京学院大中京を下し、決勝進出です。寺沢、2イニングパーフェクトリリーフ、奥川の作った“流れ”をがっちりつなぎました。

 “スーパーエースは出来る事は何でもやる。でもそんなエースに頼り切らない。そして全員のレベルが上がっていた令和の星稜だ!”

 ◆小野塚 康之(おのづか やすゆき)元NHKアナウンサー。1957年(昭32)5月23日、東京都出身の62歳。学習院大から80年にNHK入局。東京アナウンス室、大阪局、福岡局などに勤務。野球実況一筋30数年。甲子園での高校野球は春夏通じて300試合以上実況。プロ野球、オリンピックは夏冬あわせ5回の現地実況。2019年にNHKを退局し、フリーアナウンサーに。

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