【内田雅也の追球】「秋」を迎える疾走――立秋に見えた阪神の肝要

[ 2019年8月9日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神5―3ヤクルト ( 2019年8月8日    神宮 )

6回無死二塁、大山の左前打で二塁から生還する糸井(撮影・大森 寛明)
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 暦の上では秋になった。新古今和歌集の、あの歌を口にしたくなる。

 秋来ぬと 目にはさやかに見えねども 風の音にぞ おどろかれぬる

 藤原敏行が「秋立つ日、よめる」と立秋に詠んだ歌である。秋が来たと目にははっきりとは見えないが、風の音にはっと気づいた、といった意味だ。そう、秋は知らぬ間にやってくる。

 東京も猛暑で神宮に秋の気配はない。ただ、今季の阪神の戦いを考える時、今はもう「秋」と意識しておいた方がいい。

 この夜は104試合目だった。今季は雨天中止が2試合と少なく、試合消化が早い。シーズン20試合も中止があった昨季の104試合目は8月23日。もう100回記念の夏の甲子園大会は閉幕していた。つまり、今年は昨年より半月早い。野球をみる季節感もネジを巻かねばならない。

 昨季は104試合時点で49勝54敗1分け。3位巨人を1ゲーム差で追う4位だった。今季はこの夜の逆転勝利で47勝52敗5分け。昨季同時期と同じ借金5である。3位広島とは5・5ゲーム差で、9日から直接対決する。食らいつくしかない。

 昨年は秋が深まるにつれ、失速していき、最下位に沈んだわけだ。つまり残り40試合を切った、ここからが本当の勝負なのだ。もう何年も秋の失速が指摘される阪神にあって、今からいかに奮い立てるかだ。

 この夜は「秋」を戦ううえで肝要となる、目を引く走塁があった。

 逆転した6回表、無死二塁で大山悠輔の左前ポテン打で二塁から生還した糸井嘉男は好判断だった。原口文仁の同点打は投手強襲、遊撃前に転がる内野安打で必死の形相で駆けていた。原口は直後、北條史也の二塁打で一塁から長駆(ちょうく)力走し勝ち越し生還した。

 得点には結びつかなかったが、2回表には福留孝介が投前セーフティーバントで、3回表には糸井が三塁前ボテボテのゴロで、ともに一塁まで全力疾走する姿があった。あのベテランの姿をみれば、喝が入るだろう。

 逆に残念だったのはヤンハービス・ソラーテの凡走だ。1回表、遊ゴロでの走り方は幼児が飛びはねるようだった。スタンドから「ちゃんと走れよ!」と聞こえた。ジェフリー・マルテとて同じである。足でも傷めているのだろうか。

 「走姿顕心」(そうしけんしん)と当欄で何度も書いてきた。走る姿に心が顕れる。駅伝の名門、小林高(宮崎)の外山方圀に同名の著書があり、『凡事徹底』の著書がある会社経営者・鍵山秀三郎も引用している。

 普段は見ることができない心を見たい。「秋」を迎えたいま、猛虎たちの走る姿に心を、覚悟を見たい。=敬称略= (編集委員)

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