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【さくらいよしえ きょうもセンベロ】参道昼飲み 龍神サマと乾杯!

[ 2019年5月10日 12:00 ]

赤いのれんが目印の「額堂」と元和8年(1622年)建立の五重塔
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 薫風の5月。新緑を求めてセンベロライター、さくらいよしえが訪れたのは千葉県市川市にある日蓮宗の大本山、中山法華経寺。広い境内にある茶店「額堂(がくどう)」は、昼飲みが楽しめる茶店。お参りついでに一杯、霊験あらたかな般若湯。

 新緑の桜の葉が低く重なる参道沿い。創業160年の茶店がある。じつは飲める小さな桃源郷だ。

 「朝、参道を歩くと、二日酔いの体がきれえになる気がすんのな。んで、ビールとみそ田楽食べればもう元気」と常連のスカジャンを着たおじさん。早々とお茶割りにシフトすると「ああもう濃いんだもん」と身悶(もだ)えている。

 茶褐色に染まった柱にムクの天井、代々守る外稲荷、壁には古い木札が並ぶ。

 「大正末期の“招木(まねき)”です。商売をやっている旦那衆が参拝に来た時に1枚2円で買い飾ったもの」と5代目女将。広告の役割も果たす縁起物のよう。

 みそ田楽に自家製ところてん、子孫繁栄の象徴というほくほくのきぬかつぎをあてに飲めば、なんだか霊験あらたかな酔い心地である。

 女将がその昔、先代(伯母)が体験したという不思議な話を教えてくれた。

 当時、店を休んでいた先代は、お金がもうかりますようにとお百度参りを始めたそうな。するとある晩、「お題目を上の空で唱えるより、顔を明るくして働くこと!」と八大竜王様のお告げが。

 なるほど、神頼みよりまず働くことかと得心し、ビールを飲みつつ取材するわしに「ここの太鼓焼きは、酒のつまみになる味よ。ほんとうめえんだ。オレお土産用に10個よろしく」とおじさんが大判焼きをすすめてくる。ずいぶんと太平楽なおじさんだと思って見ていると、じつは塗装業兼、お祭りの露天商だと言う。

 お祭りでは400円のだっこちゃん人形を売るという。「200円しか持ってねえ子が買いに来んの。そんな時は八百長やって、アタリ出たから持ってきなって。義理と人情よ」

 おじさんの生きざまを拝聴するうち、太鼓焼きをもとめる家族連れが。

 「オレのは後回しでいいよ。お茶割りおかわり」

 あつあつの太鼓焼きは、艶のある薄生地にぎっしりの十勝あん。甘すぎず大変美味だった。

 「うまいべ。これから焼き鳥屋行って皆に配るの」と、その時また「太鼓焼き下さーい」。「オレの分は最後でいいよ。お茶割り…もう一杯」

 顔を明るくよく働きよく飲んで、ハシゴ酒には手みやげも忘れない。かつ、太鼓焼きが売り切れると自動的に(おじさんに)お茶割りが売れる構造になっている。

 おじさんが大変立派な参拝客に見えてきた。きっと龍神様も感心しておられるに違いない。(さくらい よしえ)

 ◆額堂 創業は江戸時代末期。現在の場所に移転して80年。店を切り盛りするのは「えっちゃん」こと伊藤悦子さん(69)。女将目当てに訪れる客も多く、人生相談に乗ることもあるとか。ノラネコを“地域ネコ”として面倒をみており看板メニュー「ちーの太鼓焼き」の「ちー」は25年生きた飼いネコの名前から。そば、カレーライスなど食事メニューも充実している。千葉県市川市中山2の4の13。(電)047(335)2385。営業は午前10時から午後7時ごろ。不定休。

 ◇さくらい よしえ 1973年(昭48)大阪生まれ。日大芸術学部卒。著書は「東京★千円で酔える店」(メディアファクトリー)、「今夜も孤独じゃないグルメ」(交通新聞社)、「きょうも、せんべろ」(イースト・プレス)など。

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