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【全国ジャケ食いグルメ図鑑】長野県・千曲市で飯がすすむ呪文「ニンタレカツ」

[ 2018年8月17日 12:00 ]

緑が生い茂る「食堂 大黒」の“ジャケット”。珍しく久住さんも一緒にパチリ
Photo By スポニチ

 人気ドラマ「孤独のグルメ」の原作者、久住昌之さんが外観だけで店選びをする「全国ジャケ食いグルメ図鑑」。いや〜、世の中にはまだまだ知らないうまいものがありますね。そう実感させてくれたのが、長野県千曲市の温泉街で出合った小さな店。オリジナルの「ニンタレカツ」。文字だけではいったい何か分からない呪文のような一品は、いったい…!?

 長野県千曲市に行ってきた。戸倉上山田温泉の旅館組合青年部に呼ばれて、上山田公民館で、ボクの新しい音楽ユニット「QUSDAMA」の無料ライブ。市長さんも来てくれ、終演後「コンサートを見てこんなに笑ったのは初めてです。ぜひまた来てください」と言われた。

 上田駅からやってきて温泉街を車で通った時、ちょっと目についたのがこの店「大黒」。そしたら翌日の昼、青年部の人にズバリこの店に案内された。うれしい。

 このジャケット、つまり店構え、素晴らしい。今回珍しくボクの写り込み写真。誰か人がいる方が、この店の味が出るような気がした。というか、昼時は大抵外に人が並んでいる人気店だそうだ。

 この、ジャケットの半分を覆った植物のボリューム感。いろんな植物が交じっているようだ。「中華そば カツ丼 食堂大黒」のツートンカラーと、目の覚めるような明るい紺色の暖簾(のれん)も美しい。

 ちなみに、地元の人はこの店を「大黒屋」と呼んでいた。ネットなどには「大黒食堂」と書かれて紹介されていた。前にも書いたが、大切な店名がいろいろ違っている店は全国にあり、そういう店はたいがい、おいしい。長くやっていて、お客さんもしっかりついており、名前を売る必要もなくなり、いい意味で名前なんてどうでもよくなっているのだろう。

 入ると小さな店で、4人掛けのテーブルが4つ。4人で入ったが混んでいて、2人ずつ相席に。ここでは相席が当たり前なんだそうだ。しかしテーブルが小さい。椅子も小さい。大柄の人はちょっと席を選ぶことになるだろう。ご夫婦2人でやっているようだ。

 メニューは少ない。ラーメンとワンタンとカツ丼と玉子丼と、ニンタレカツライス。季節もので冷やし中華もあった。カツ丼には、玉子カツ丼とソースカツ丼があった。

 ボクは人が食べているのを見て、ソースカツ丼を頼んだ。写真を見ていただきたい。このライスの表面積半分を占めるキャベツ炒め。刻みキャベツがカツの下に敷いてあるのは見たことがあるが、こんなソースカツ丼は初めてだ。ボクはキャベツが大好きで、キャベツ炒めも大好きなので、これはもの凄くうれしい。味付けはウスターソースで酸味があってこれまたおいしい。トンカツがでかさの割に軽くて、ご飯もうまい。いやー、世の中にはまだまだ知らない食べ物がある。

 玉子カツ丼を食べている人も多かった。これはいわゆる普通の卵とじされたカツ丼だけど、ボリュームが凄い。一応、蓋(ふた)をしてあるんだけど、トンカツがそれを押し上げている。見ていると、食べ慣れている人は、取った蓋を裏返してテーブルに置き、そこに2切れから3切れのカツを置いて、それには手をつけず、丼に取りかかっている。でないとご飯が食べられないからだろう。面白い。

 青年部の人が、ぜひ食べてほしいと「ニンタレカツ」を頼んでくれた。これまた想像とは違う一品だった。ニンニクががっつり効いた醤油(しょうゆ)ベースのタレに、刻んだニラがドッサリ入っているものが別の器に付いてくる。スプーンでタレをすくってカツにかけようとすると「かけ過ぎないでね!しょっぱいから」と店主の親父さんに言われた。少しかけて食べてみる。おお、ニンニク!確かにたくさんかけたらしょっぱいだろう。でもおいしい!ニラがいい。さっぱりカツが食べられる。刻みキャベツにかけて食べてもおいしかった。

 ラーメンも食べてみたくて、小ラーメン=写真=も頼んだ。こちらはあっさり味の醤油ラーメン。うまい。懐かしい、好みの味。麺もチャーシューもイイ。しかし小といっても、十分のボリュームがあって、ボクは一人で丼ものとこれは食べきれない量だった。

 冷たい麦茶がものすごくうまい。酒類は置いていない。お店のご夫婦の働きっぷりを眺めているだけで、ご飯が進みそうな、本当にいい店だった。

 ◇「大黒食堂」 創業1966年。ラーメン700円、ワンタン800円、ソースカツ丼、ニンタレカツライス1000円。長野県千曲市上山田温泉2の24の1。(電)026(275)0768。営業は午前11時30分〜午後4時(ラストオーダー3時30分)。不定休。

 ◆久住 昌之(くすみ・まさゆき)1958年、東京都生まれ。漫画家、漫画原作者、ミュージシャン。81年、和泉晴紀とのコンビ「泉昌之」として月刊ガロにおいて「夜行」でデビュー。94年に始まった谷口ジローさんとの「孤独のグルメ」はドラマ化され、新シリーズが始まるたびに話題に。舞台のモデルとなった店に巡礼に訪れるファンが後を絶たない。フランス、イタリアなどでも翻訳出版されている。

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