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【全国ジャケ食いグルメ図鑑】青森県青森市・味わい深い昔風のやすらぎ

[ 2018年6月15日 12:00 ]

青森駅から徒歩9分の純喫茶「マロン」。マッシュルームカットの女性のイラストがイイ!
Photo By スポニチ

 人気ドラマ「孤独のグルメ」の原作者、久住昌之さんが外観だけで店選びをする「全国ジャケ食いグルメ図鑑」。花の名前には紫陽花(あじさい)など当て字がありますが、食べ歩きでも不思議な漢字メニューに出合うことがあります。今回は「攪拌(かくはん)牛乳上盛珈琲」。何のことか分かります?

 仕事で青森へ行き、青森市内に宿をとった。ちょっと小腹がすいたので、ホテルの近所で見つけた店。見つけたというか「マロンっていう面白そうな喫茶店があるみたい」とは、旅前に友人に聞いていた。でも宿のすぐそばにあるとは思わなかった。そしてこんなジャケットとは思わなかった。店は2階だった。1階の階段の上り口がこれだ。歩道を歩いて行ったボクに、看板横の「純喫茶MARRON」の文字が最初に目に入った。

 そしてその下の丸い看板のマッシュルームカットの女性の顔のイラスト。これがこのジャケットの中心であることは言うまでもない。この目。この唇。耳たぶあたりが切れ込んでいるのは、イヤリングということだろうか。面白いデザイン処理だ。60年代後半から70年代っぽいと言えば簡単だが、一周して新鮮な可愛らしさが生き生きと目を引く。その下に「いらっしゃいませ」と無造作にぶら下がっているのも、なんだか人を食っている。

 正面に回ると、「COFFEE SHOP 自家焙煎(ばいせん) マロン」と看板にあった。純喫茶なのか、珈琲専門店なのか、微妙だ。どんな店なのか、想像がつかない。

 女の子の丸看板の裏に回ると、壁に焦げ茶色のすのこのような板が貼ってあり、そこに白いペンキの書き文字で「アンティックな空間 ひと時のやすらぎを!」と書いてあった=写真。どんな安らぎなんだろう。

 緑のカーペットが敷かれた階段を上っていくと、右手に木のドアがあり、正面の壁にショーケースがあり、中にはレトロなブリキのおもちゃがびっしり入っていた。ボクの子供の頃のものだ。「8マン」のやけに四角いおもちゃが目立った。

 そして中に入った。結構広い。まずたくさんの柱時計が目に入った。ペコちゃんのソフトビニール人形、古いコカ・コーラの缶、馬車の車輪、ランプ、コーヒーミル、昔の壁掛け電話、プレスリーのレコード…。確かにアンティークなものが無数にちりばめてある。でもゴチャゴチャと無秩序な子供のおもちゃ箱状態でなく、不思議に落ち着いている。

(楽しい壁のドリンク表記/聞いたことない食ズラリ/) いいじゃないか。ボクは黒のビニールソファの席に着いた。この椅子もいい。水を運んで来た、いかにも昔のウエートレス的な制服を着た年配の女性が「食べ物だけ終わってしまったんですよ」と言った。ボクが入ったのは午後8時すぎで、閉店が8時半だという。

 ブレンドコーヒー(400円)を頼んだ。これが、味がしっかりして濃く、香りもいい、とてもおいしいコーヒーだった。看板に偽り無しだ。旅の疲れが一口で和らぐ。窓際はガラス張りの席になっていて、ひとり静かにくつろいでいる若者客がいた。

 壁のドリンク表記が楽しい。「三種混合珈琲 ブレンドコーヒー」「寒天珈琲 コーヒーゼリー」「攪拌牛乳上盛珈琲 ウインナコーヒー」等々。卓のメニューを開いたら、特製ジャマイカンカレー(770円)というのがトップにあった。うわー、どんなものだ?食べてみたい!ビーフジンジャーピラフ(880円)も聞いたことない一品だ。そそる。コーヒーの味、店員さんの感じからして、丁寧に作られた一品に違いない。ナポリタン(770円)もある。うわーこの店の食べたい食べたい。

 さらに、フランクフルトの串焼き(640円)。ありそうでないメニューだ。ちなみにアルコール類は無い。コーヒーで、フランクフルトの串焼き。どうだろう。想像もつかない。が頼んでみたい!でも、コーントーストチーズ焼き(650円)ってなんだ?

 おいしいコーヒーをゆっくり味わいながら、メニューを読み、店の中を見回す。食べ物が味わえなかったのは、本当に残念だったが、楽しい時間だった。

 帰りにお金を払う時、ケースの中にレトロなケーキが並んでいるのを見つけた。これはきっと頼んだら食べられただろう。後の祭りだ。「フラン」「ロールパイ」「メゾン」「ロワイヤル」みんな昔風でおいしそう。しかもどれも200円台で安い。

 青森市内だし、今度来たら絶対ジャマイカンカレーだ。必ず来る。店の人もとっても感じよかった。

 ◇マロン ハムと野菜のトーストサンド(480円)、強酸味果汁(生レモンジュース500円)。青森市安方2の6の7、JR青森駅から徒歩9分。(電)017(722)4575。営業は午前7時〜午後8時。水曜定休。

 ◆久住 昌之(くすみ・まさゆき)1958年、東京都生まれ。漫画家、漫画原作者、ミュージシャン。81年、和泉晴紀とのコンビ「泉昌之」として月刊ガロにおいて「夜行」でデビュー。94年に始まった谷口ジローさんとの「孤独のグルメ」はドラマ化され、新シリーズが始まるたびに話題に。舞台のモデルとなった店に巡礼に訪れるファンが後を絶たない。フランス、イタリアなどでも翻訳出版されている。

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