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【旅ヂカラ漫遊記】志賀直哉が愛した城の崎にて7つの外湯巡り

[ 2017年4月12日 12:00 ]

下駄に浴衣姿の温泉客が闊歩する城崎温泉。温泉巡りが楽しい
Photo By スポニチ

 志賀直哉の名作「城の崎にて」が発表されてから今年で100年。舞台となった山陰の名湯、城崎温泉(兵庫県豊岡市)を訪ねた。7つの外湯を巡る男女の下駄(げた)と浴衣姿が似合う昔ながらの温泉で、古来、文人墨客が多数来訪。3年前には号泣県議が何度も訪れたと放言して話題にもなったが、ミシュラン二つ星に輝く名湯の“温泉力”はウソではなかった。

 ♪下駄をならして奴(やつ)がくる…。JR山陰本線城崎温泉駅から西へ広がる城崎温泉。旅館で浴衣に着替えて下駄を履き、町の中央を流れる大谿(おおたに)川沿いを歩くと、つい、先日亡くなったかまやつひろしさんの「我が良き友よ」を口ずさんでしまった。

 旅館のタオルを手にカランコロン。今ではほとんど見られなくなった温泉の懐かしい風景だ。向かうのは駅に近いさとの湯から約1・4キロにわたって続く地蔵湯、柳湯、一の湯、御所の湯、まんだら湯、鴻(こう)の湯の7つの外湯。約1300年前、道智上人が千日祈願の末に霊泉を湧出させたのが始まりという城崎温泉の主役で、これらをハシゴするのが温泉散策の醍醐味(だいごみ)だ。

 ここを志賀直哉が訪れたのは1913年(大2)。交通事故で大ケガをした後の養生のためで、現存する国登録有形文化財の宿「三木屋」に3週間宿泊。その間体験したことをまとめたのが「城の崎にて」で、その後も訪れるたびに泊まったお気に入りの部屋「26号室」は今も残されている。

 滞在中、志賀が好きだったという外湯は、もう一つの名作「暗夜行路」にも描かれた御所の湯。記者も入ってみたが、滝を見ながら身を沈める天空露天風呂はゆったりして開放感たっぷり。切り傷や冷え性などに効能があるという熱め(42度)の湯(塩化物泉)が心身を癒やしてくれる。

 大満足で外湯巡りは1カ所で終え、次はタモリ気分でまち歩き。「城の崎…」の作中に登場する蜂、ネズミ、イモリの造形物が隠された木屋町小路や、ロープウエー(往復900円)で登った大師山(標高231メートル)頂上展望台からの日本海まで望める絶景を楽しんだ。

 「城崎は昔から道は廊下、外湯は風呂、旅館は客間として湯治客を町じゅうでもてなしてきたんです」とはロープウエーのガイドさん。そう言われて改めて見下ろすと、約80軒の旅館・ホテルのある温泉街がまるで一軒の宿。玄関先から下駄の音が聞こえてくるようだった。

 ≪名物・太鼓の時計台≫翌日は豊岡市のもう一つの目的地、山陰本線豊岡駅からバスで約30分の出石(いずし)町へ。“但馬の小京都”といわれる風情ある町で、江戸時代は5万8000石の城下町として栄え、今も城跡を中心に当時の区割りを残した町並みが続く。その中でひときわ目立つのが高さ約20メートルの辰鼓楼(しんころう)。1871年(明4)、旧大手門脇に建てられた太鼓の時計台で、今も午前8時と午後1時に太鼓の音で時刻を告げている。1時の音を聞いた後、そば店「家老」で名物・出石皿そばに舌鼓。白磁の出石焼の小皿に盛られた手打ちそばをだし汁につけて食べるもので、生卵、ネギ、とろろ付き、5皿で800円(追加1皿130円)。コシがあってのど越しが良く、8皿を完食した。現在そば店は44軒。出石皿そば人気で増える一方という。

 ≪麦わら細工体験≫豊岡市で話題は6月17日に運行開始されるJR西日本の豪華寝台列車「瑞風」。停車する城崎温泉では、乗客に宿泊客以外に公開しない三木屋・26号室の見学や伝統工芸品・麦わら細工の体験をしてもらう。記者も麦わら細工伝承館(入館料300円)で麦わら細工の絵皿(400円)に挑戦。色染めされた麦わらを開いて作った模様を小皿に貼り付け、約10分で完成。ちょっぴり乗客気分を味わった?

 ▽行かれる方へ 車は京都縦貫道から国道9、312号利用。外湯入場料は御所の湯、さとの湯が800円、他は600円。宿泊客は無料。問い合わせは城崎温泉観光協会=(電)0796(32)3663、出石観光協会=(電)同(52)4806。

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