舞台は異例の国民宿舎 「さんべ荘」社長、世紀の対局に感慨「星空から“白星”探し出して」王将戦第5局

[ 2023年2月25日 05:28 ]

第72期ALSOK杯王将戦第5局第1日 ( 2023年2月25日    島根県大田市「さんべ荘」 )

「さんべ荘」では露天風呂から満天の星空を観測できる

 今回の舞台となる島根県大田市の「さんべ荘」は、タイトル戦の会場としては異例の国民宿舎だ。「国民宿舎でタイトル戦を」との悲願から約20年。6度目の王将戦開催で巡ってきた藤井と羽生の“世紀の対局”に、関係者の士気も上がっている。

 2001年2月8日――。山口県柳井市の「柳井クルーズホテル」で行われた第50期王将戦第4局を現地観戦したさんべ荘の宇谷義弘社長(76)は、対局場に漂うただならぬ真剣勝負の雰囲気に圧倒された。

 「王将戦をさんべ荘でやりたい」。

 タイトル戦は老舗旅館や一流ホテルでの開催が主流。「安かろう悪かろうの国民宿舎で、できるわけがない」という周囲の声を尻目に、宇谷社長は動いた。翌年、対局場として使われる離れ4棟を2億円以上投じて建設。地元で会社を営む建設会社社長が、将棋盤と掛け軸を500万円以上かけて用意してくれた。

 「夢のまた夢だった」(宇谷氏)という構想から3年後の04年、羽生王将(当時)と森内俊之竜王(同)の第53期王将戦開催。スター2人に何かあってはいけないと全館貸し切りで警備員を配置。「日本の宝ですから。羽生先生に“長い間いろんなところで対局していますけど、警備員をつけていただいたのは初めて”と言われた」(宇谷社長)と、万全の態勢でやり遂げた。

 21年までに王将戦を5度開催。将棋連盟によると「データのある79年以降で、同所以外の国民宿舎でのタイトル戦はないと思われます」と異色の舞台として名を残している。昨年は6局目予定。藤井王将4連勝で開催はかなわなかった。

 宇谷社長は「初めて羽生先生をお迎えしてから20年。当時の羽生先生と今の藤井先生の姿が重なって、縁のようなものを感じる。従業員も緊張感を持っている」と語る。宿の売りは露天風呂に広がる星空。「両者に星空を楽しんでもらい、大田対局の“白星”を探し出してほしい」と総力を挙げて迎え入れる。

 ▽国民宿舎 国立公園・国定公園・都道府県立自然公園・国民保養温泉地などの、自然環境に優れた休養地に建つ公共の宿。比較的低価格で誰もが楽しめ、健康増進を図れる宿として、1965年に制度化された。地方公共団体などが運営する公営のものと、国民宿舎協会が指定した民営のものがある。

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