【内田雅也の追球】開幕がやってきた 心を白紙に戻し、プレーボールを待とう

[ 2022年3月25日 08:00 ]

学士会館に建つ「日本野球発祥の地」記念碑
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 今年は日本に野球が伝わって150年の節目にあたる。プロ・アマが結束し、各種記念事業をスタートさせている。

 1872(明治5)年、米国人教師ホーレス・ウィルソンが第一番中学(今の東京大)で英語や数学を教えるかたわら野球も教えた。場所は今の学士会館(東京・神田錦町)で「日本野球発祥の地」の記念碑が建つ。

 この伝来の大きな根拠は1896(明治29)年7月22日付で新聞『日本』に掲載された投書である。「好球生」とのペンネームで「野球の来歴」と題されていた。「そもそもベースボールのはじまりは明治五年の頃なりし」との書きだしから、ウィルソンについて「この人常に球戯を好み体操場に出てはバットを持ちて球を打ち余輩にこれを取らせて無上の楽しみとせし」とあった。

 ノックのような遊びが「無上の楽しみ」なのだ。野球好きならわかる感覚だろう。バットでボールを打った時、白球を追う快感。何年たとうが変わらぬ「楽しみ」を大切にしたい。野球を愛する者の原点である。

 今年もプロ野球が始まる。公式戦開幕を翌日に控えた心の高ぶりは野球記者38年目を迎えても変わらない。当欄のスタートは2007年4月。16度目のシーズンに向け、決意を新たにする。

 自ら戒めるべきはマンネリだ。僭越(せんえつ)の極みは承知のうえで松本隆に学びたい。2千曲以上を手がけた作詞家は<コツに頼らないこと、いつも白紙に戻すことが大事だと思っている>という=藤田久美子『松本隆のことばの力』(インターナショナル新書)=。<体のどこかにテクニックが染みついたところはありますけれど、むしろ毎回それをゼロに戻して、無になって書いてきました>=延江浩『松本隆 言葉の教室』(マガジンハウス)=。

 <人を感動させるには、まず自分の心を動かすこと>。そして<なぜ動いたのかを問い詰める。その答えを見つけてから書く。そうすると、ああそういうことかと、人もわかってくれる>。

 ロジャー・エンジェルは少年時代の思い出を大切にしていた。好きな言葉がある。「素晴らしい出来事は子どもの頃だけに限ったものではない。明日取材する試合が、これまで観た試合のうちで最高のものになるかも知れないのだから」

 さあ、心を白紙に戻し、プレーボールを待とう。 =敬称略=
 (編集委員)

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2022年3月25日のニュース