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【内田雅也の追球】重盗を防ぎ、流れ呼んだ阪神・梅野の予測と視野 ayuの曲にこめられた思い

[ 2021年10月2日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神5-2中日 ( 2021年10月1日    甲子園 )

<神・中21> 4回、二塁に向けて偽投後、三塁に送球する梅野(撮影・平嶋 理子)
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 守備の時、ただ1人反対方向を向き、90度に開いたグラウンド全体を見渡す。「扇の要」と呼ばれる捕手には視野の広さが求められる。

 現役時代、セ・リーグ捕手で最多10度ゴールデングラブ賞の古田敦也(野球評論家)は剣道などで使う「遠山(えんざん)の目付」を求めた。遠くの山を見るように全体を見る。沖縄・浦添のヤクルト・キャンプ中、若手捕手を指導する際、たとえに用いていた。

 小説などで宮本武蔵の師とされる沢庵宗彭(和尚)の言葉にもある。「葉一つに心をとられ候わば残りの葉は見えず。一つに心を止めねば百千の葉みな見え申し候」。木を見て森を見ずに陥るなという教えである。

 ならば、この夜の阪神・梅野隆太郎は山を見渡し、森も木も葉も見えていた。

 0―0の4回表、2死一、三塁だった。打者・福田永将の2ボール2ストライクから一塁走者ダヤン・ビシエドがスタートを切った。投球(ボール)を受けた梅野は二塁に向けて偽投、大きく離塁した三塁走者・大島洋平を刺した。二塁送球なら大島が本塁突入する重盗を未然に防いだのだ。

 恐らく梅野は重盗を予測していた。2ストライクと追い込み、より予測は強まっていただろう。

 またビシエドは足が速くない。今季盗塁企図は3(成功1、失敗2)しかない。そんな一塁走者が走れば、瞬間に重盗を思ったろう。こうした予測に加え、広い視野で、捕球時には大島の動きも見えていたはずだ。

 膠着(こうちゃく)状態の展開で先取点の重みは増していた。直前3回裏の攻撃で1死二、三塁を逃し、先発・伊藤将司が初めて迎えたピンチ。嫌な展開を救ったのだ。

 その裏、大山悠輔が先制2ランを放ち、流れをつかんだのだ。先取点を許し、追う展開となっていれば、打線はまた重く、硬くなっていたかもしれない。野球の流れとはそういうものだ。梅野の好判断が勝利を呼んだのである。

 球団企画で、この夜、選手の登場曲はすべて懐メロだった。梅野が選んだのは同郷・福岡出身、浜崎あゆみの『SEASONS』だった。ミリオンセラーで発売は2000年6月。翌年、梅野が小学4年生の時、母親をがんで亡くした。病床の母といっしょに聴いていた曲かもしれない。

 「今日がとても楽しいと 明日もきっと楽しくて そんな日々が続いてく そう思っていたあの頃」

 2013年ドラフト指名を受けた時、母の話を担当記者から聞いて涙したのを思い出す。

 優勝争いのなか、守備面をつかさどる梅野は神経をすり減らす、辛い日々だろう。5日ぶりの勝利の瞬間、息をついた笑顔が印象的だった。ayuは歌っていた。

 「そんな日々もあったねと 笑える日が来るだろう」 =敬称略= (編集委員)

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