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【全国ジャケ食いグルメ図鑑】「食堂一休」心も満たす誠実な“隠し味”

[ 2016年9月16日 05:30 ]

「レトロ」で片付けたくない!「食堂一休」
Photo By スポニチ

 人気ドラマ「孤独のグルメ」の原作者、久住昌之さんが外観だけで店選びをする「全国ジャケ食いグルメ図鑑」。東京都調布市のつつじケ丘駅そばの商店街で見つけた「食堂一休」。客が入りやすいよう、のれんの右端を折って留めるなど店主の“目配り、気配り、心配り”が外観にも味にもあふれている現代の「誠実食堂」だった。

 調布はつつじケ丘で素晴らしいジャケット(店構え)の食堂を発見。オレンジのテント看板のコーナーに、青字白ふちくくりで「食堂」と大きく入っているのが、駅方面から歩いてくるとドーンと目立つ。上の「西つつじケ丘富士見街」の商店街看板とも、いいハーモニーを感じさせる。富士山のイラストもカワイイ。

 洗いざらしで清潔感あふれる白のれん。「味の店」とサブタイトルが付いている。のれんの右端は風でめくれたのではなく、入りやすいよう店主が折って留めたものだ。鉢植えも手入れされていて、店主の几帳面(きちょうめん)な性格を表しているようだ。キリン一番搾りの黄色い提灯(ちょうちん)、「ラーメン」と書いただけの大きなのぼりも、ジャケットの一部として溶け込んでる。

 立て看板は一部が黒板になっており、チョークで日替わり定食が書いてある。今日は「肉ニラ炒め 味付け海苔(のり)・酢の物付き750円」。安いじゃないか。その立て看板には、食堂ではなく「食事一休」と書いてある。このように店名の表記が、看板やのれん、立て看板で食い違っている店は、長く続いていることが多い。否定的な要素でなく、むしろ期待できる。

 さて、店内。L字カウンターと4人がけテーブル席ふたつ。ジャケット同様、古いながらも片付いていて清潔。昔ながらの街の食堂だ。ご夫婦でやっているようで、接客もすごく感じ良い。間違いなくここはいい店だと確信。まずビールとマカロニサラダを頼み、何を注文するべきか検討する時間を稼ぐ。

 壁に貼られた手書きのメニューが秀逸だ。筆でただ書いたのではなく、サインペンで一文字一文字きっちりレタリングしている。これは時間がかかったに違いない。サンマとサバの「焼き魚は10分位かかります」と書いてある。むしろ、そう断っていることがおいしそうに感じさせる。

 ハムカツ、コロッケ、メンチ、アジフライなど揚げ物も充実。中華麺類、丼ものも数多い。冬季限定の「肉鍋定食」も気になる。

 いかにも家庭的なマカロニサラダをつまみながらビールを飲んでいたので、全部カタカナ書きのヤキソバ530円に心惹(ひ)かれ、それとサンマ定食790円のごはん少なめを注文。ヤキソバはソース味で、ビールのつまみになる。これをやりながらサンマ定食を待つ。

 ふたつに切って出てきた焼きサンマ、大根おろしに醤油(しょうゆ)をたらし、熱いとこを一緒に頬ばれば、もうコタエラレナイ。白い飯もうまい。帰りに見たら大きなガス釜で炊いていた。感動。この飯ならショウガ焼きなんかもめちゃくちゃ合いそうだ。ヤキソバは、この飯のオカズにも使えた。キュウリとワカメの酢の物もおいしい。お新香は黄色いたくあん。すべて昔ながらの味。でも「レトロ」で片付けたくない現代の誠実食堂だ。

 気がつくと店は満員になっていた。昼少し前に入ってよかった。客はおっちゃん、あんちゃん、じいちゃんの全員男だった。涼しくなったらタンメン食べに来るぞ。

 ◇食堂一休 創業36年。開業前は5年間ほど近所でラーメン店を経営していたが、食堂に衣替え。トンカツ定食(890円)、メンチ定食(790円)や煮カツ定食(790円)などボリュームのあるメニューも並ぶ。マスターは「オススメもないけど全部手作りしてます。食堂なんで、お米にはこだわっているね」。東京都調布市西つつじケ丘3の25の4、京王線つつじケ丘駅から徒歩5分。(電)042(482)6225。日曜日定休。

 ◆久住 昌之(くすみ・まさゆき)1958年、東京都生まれ。漫画家、漫画原作者、ミュージシャン。81年、和泉晴紀とのコンビ「泉昌之」として月刊ガロにおいて「夜行」でデビュー。94年に始まった谷口ジローとの「孤独のグルメ」はドラマ化され、新シリーズが始まるたびに話題に。舞台のモデルとなった店に巡礼に訪れるファンが後を絶たない。フランス、イタリアなどでも翻訳出版されている。

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