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【さくらいよしえ きょうもセンベロ】300円で飲み放題 焼酎に夢中

[ 2019年3月8日 12:00 ]

「バレル…」の施設内には焼酎の試飲&販売コーナーも。さくらいさんもほろ酔い♪
Photo By スポニチ

 2014年10月の連載開始以来、はじめて関東を離れてセンベロ遠征へ。ライター・さくらいよしえが向かったのは焼酎の本場、鹿児島県霧島市。日本一の種麹(たねこうじ)に出合い、本格焼酎飲み放題の名居酒屋で「だれやめ」の夜はふけていった。

 鹿児島空港に着いた瞬間、真昼だというのに芋焼酎が飲みたいような気がしてきた。風か?景色か?

 風土とは恐ろしい。「河内源一郎商店」グループは、九州唯一の種麹屋であり研究所でもある。酒造りには欠かせない国菌は3つしかなく、世に流通する焼酎の8割が当地の「河内白麹菌(かわちしろこうじきん)」で造られているというのに驚いた。

 「バレル・バレープラハ&GEN」は、焼酎造りの見学から「河内菌黒麹」を用い発酵させた飼料を食べて育った甘みあふれる黒麹豚のウインナー、人気土産の酵素入り健康ドリンク「前立腺の友」(即、父へ贈る)に出合い、麹菌の深さに地味に打たれた。

 夜、我々はそんな母なる河内菌で造られた焼酎を堪能すべく「300円で焼酎飲み放題」という店へ。こりこりした赤身のとり刺し、舌でとろける白レバ刺しなど朝締めのみずみずしい鶏料理が並ぶ。「大政」は上品な焼き鳥店である。

 不可思議だった。チューハイは350円なのに、1人300円で時間制限なしで飲み放題の焼酎は、「国分」「黒伊佐錦」などの一升瓶がどんと卓に置かれる。

 間もなくホール担当の名物大女将が「あ〜ん焼き鳥は串から外さないで。私パチンコ行かず一生懸命打ったのよ」と言いながらヨッコラショと横で一緒に飲み始めた。あまりに自然な加わり方に、驚くのを忘れた。

 大女将は19歳でご主人と結婚。以来、創業41年の内助の功だ。

 「開店3年で100万円ためたのよ。父さんがそれを200万にしちゃるち、ゆうてね」。期待通り「競輪に使い果たしてしまった」。皆で、わはははと笑ううち一升瓶が空いた。次の焼酎だ。罪さえ感じるこの飲み放題、35年前に始めた理由は「ボトルキープが大変だったから」。

 思わずずっこけた。意外にも赤字にはならない。「ここは店主がやかましい店ち、言われちょったよ。でも父さんは腕に自信があるから、いいの」

 昨年、娘が2代目を継ぎ改装。「こだわったのは鏡」。カウンターの天井部に鏡があり、焼き場から客の手元が見えるのだ。

 食べる速度を確認しながら1本ずつ焼く若女将。これ、父譲り。だからこそ串をもう少し、焼酎ももう1杯、と客は長っ尻。

 皆センベロを3日分、出張族はバカンス1期分を満喫しに来るのだ。誰もやめない「だれやめ」(鹿児島弁で焼酎を飲み疲れをとる意)。幸せ過ぎて、明日がコワかった。(さくらい よしえ)

 ◆バレル・バレープラハ&GEN 鹿児島空港から車で1分の麹のテーマパーク。施設内には焼酎工場、レストラン、地ビール、黒麹豚ハム・ソーセージの販売店がある。焼酎好きにはうれしい試飲コーナーもある。空港からの送迎も行っている。鹿児島県霧島市溝辺町麓876の15。(電)0995(58)2535。

 ◆大政 本格焼酎の「国分」「黒伊佐錦」「玉露」「黒霧島」「島美人」「アサヒ」が1人300円で時間無制限飲み放題。お湯、氷、水は全て無料。お通しは350円だから合計650円だけで正真正銘、“センベロベロベロ”体験ができるが、店の心意気に応える客に「そういう人はいない」と大女将の松田ヨシ子さん(72)。娘で2代目の知子さん(44)が焼く焼き鳥を堪能しながら客は焼酎をたらふく飲むのだとか。鹿児島県霧島市国分中央3の15の13。(電)0995(45)4401。営業は午後6時から11時。日曜定休。

 ◇さくらい よしえ 1973年(昭48)大阪生まれ。日大芸術学部卒。著書は「東京★千円で酔える店」(メディアファクトリー)、「今夜も孤独じゃないグルメ」(交通新聞社)、「きょうも、せんべろ」(イースト・プレス)など。

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