超刊スポニチ

【さくらいよしえ きょうもセンベロ】酒も料理も店主も濃いめ

[ 2018年10月12日 12:00 ]

店主の田口さん夫妻
Photo By スポニチ

 JR武蔵野線と東武スカイツリーラインが交差する埼玉県南越谷。なんとも怪しげな「南越谷ゴールデン街」に足を踏み入れたのは“センベロライター”のさくらいよしえ。「末広」は料理がおいしく、酒が濃く、おまけに安い!三拍子そろった名店を切り盛りする“名優”に出会った。

 埼玉県南越谷。マニアックな歓楽街、通称「なんこし」へやってきた。夏に行われる阿波おどりにちなんだ徳島産すだちの「南越サワー」を売り出し中。

 「20店くらい出してるけど全部味が違うの。うちのが一番おいしいヨ。他のは飲んだことないけどさ」。ニカリと笑うマスターは、深海から響くようなハスキーボイス(夏に喉を壊しただ今変声期)。

 夕方5時には満員御礼。本日のおすすめは足立市場で仕入れた桜色のみずみずしい新サンマ刺し。それに、2カ月かけて作る自家製からすみで飲む。しっとりした食感に塩気をギリギリに抑えうま味を閉じ込めた濃厚な味。ライターであぶると、匂いをアテに酔えてしまう。ホッピーはジョッキたぷたぷの焼酎(90ミリリットル以上)。

 「お酒は俺が濃くしたの。酒好きに好まれる店にしたくてねえ」

 マスターが妻の実家である当店を継いだのは化学系会社の技術職を引退した9年前。実は結婚前から常連だった。

(常連さんからマスターに/) 「昔は武蔵野線の電車がなかなかなくてね。待ち時間に寄るようになって、なんとなぁくどちらからともなぁく」。36歳の時に看板娘とゴールイン。電車も待ってみるものだ。

 以来、二人三脚で店を切り盛りし、正月の夫婦旅行ではその年の絵馬を買って店に飾る。

 「いろんな人と付き合ってきた会社人生が役立ってるかなア。会社では材料を買い付ける側。店では売る側。売り買いは別って言う人もいるけど同じよ。大事なのは、信頼関係だからサ」

 理想的なセカンドライフにほのぼのした頃。

 ゴン、ゴン、ゴゴンゴーン!と卓上灰皿をゴングに見立て、仮想敵に挑むがごとくのたけだけしいじいやが約1人。和やかに飲む客らが、そっと肩越しに視線を向ける。

 すっかり酒のK点を越えたじいやの絡み酒。クールに見守るマスターだが、灰皿ゴングはやまず、「焼き鳥遅いよ、ゴゴーン」と駄々っ子老人の独壇場に。どうなることかと見守るわし。すると、つかつかとじいやに近寄ったマスターは、顔をぬうっと近づけると、ハスキーボイスで叫んだ。「ひ・ひ・か・げ・ん・にひろー!」(いいかげんにしろ)。

 じいやはびくりとして、一瞬で枯れた。間もなく「焼き鳥お待たせー」と何事もなかったかのようにサーブするマスター。

 うっとり見守るのは熟女グループ。なんこしのスター、ここにあり。 (さくらい よしえ)

 ◇末広 開業42年。1人客からファミリーまで越谷民に愛され続けている名店。ダンディーなご主人の田口康夫さん(69)。板前さんと毎朝、足立市場へ魚介類の買い出しへ行っているという。ピカピカの新鮮な刺し身が目玉。ホッピーやサワーなどの割り物の甲類焼酎が超大盛り。90ミリリットル以上で「量は分からないなぁ」。日本酒も福島の銘酒「末広」をはじめ良い酒がそろっている。破格値の「自家製からすみ」は売り切れ次第で終了。埼玉県越谷市南越谷1の26の9。(電)048(965)6949。営業は午後4時から午後11時。月曜日定休。

 ◆さくらい よしえ 1973年(昭48)大阪生まれ。日大芸術学部卒。著書は「東京★千円で酔える店」(メディアファクトリー)、「今夜も孤独じゃないグルメ」(交通新聞社)「きょうも、せんべろ」(イーストプレス)など。

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