藤井王将 劇的逆転4強 王手12連発!絶体絶命ピンチ打開し169手軍配 地元ファン歓喜

[ 2023年1月16日 05:07 ]

名古屋国際会議場で行われた将棋の朝日杯将棋オープンの本戦トーナメント準々決勝で増田康宏六段(手前)との対局に挑む藤井聡太王将(提供・日本将棋連盟)
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 将棋の藤井聡太王将(20)=竜王、王位、叡王、棋聖含む5冠=が15日、名古屋市の名古屋国際会議場で指された第16回朝日杯将棋オープン戦本戦トーナメントで準決勝進出を決めた。4強入りとなった同日2局目では、絶体絶命の状況から怒濤(どとう)の王手12連発を繰り出して状況を打開。会場の観客を大喜びさせた。15日放送されたNHK杯でも初の8強入りを決めた。

 公開対局会場を埋めた約200人の地元ファンの誰もが負けを覚悟した――。敗色濃厚の状況からつかみ取った薄氷の白星で、藤井が2期ぶり4度目制覇へ前進した。

 午前の1回戦を終盤逆転の辛勝で何とか突破し、臨んだ午後の増田康宏六段(25)との準々決勝。中盤までは互角。だが「予定していた作戦通り」と語る増田の術中にはまり、9筋の自王は、上部への逃げ道も完全になくなる袋小路にいつしか追い詰められた。

 先に持ち時間40分を使い尽くした上に、1手の緩手も許されない最悪の状況。ここで藤井が繰り出したのは王手!王手!王手!の怒濤の王手12連発だ。対する増田も必死にかわす。だが、最深部にいたはずの増田の王は入王させられ、流れの中で駒の配置が変わったことで藤井は自王周囲の守りを再構築。どちらが勝つか全く分からない状況が生まれた。

 1分将棋で時間的余裕がなく、ともに自慢の終盤力が全く発揮できない。AIの形勢判断もまるで折れ線グラフのように激しく波打ち、優劣が入れ替わる。大盤解説会場の師匠・杉本昌隆八段は盤上の動きを心配げに見つめ、永瀬拓矢王座ですら「お互いに技がかからない」という難解極まる局面。ファンは数十手にわたって固唾(かたず)をのんで対局室で見守った。

 粘りに粘った藤井に最後、169手でようやく軍配が上がった瞬間、会場には大きな拍手が鳴り響いた。さすがに疲労の色は隠せないながら、安堵(あんど)の表情を浮かべた藤井も、恒例となった地元開催での声援に「毎年、楽しみで励みになっています」と感謝した。

 現在、羽生善治九段(52)の挑戦を受ける第72期ALSOK杯王将戦(スポーツニッポン新聞社主催)7番勝負の真っただ中。21、22日には大阪府高槻市で第2局が控える。18日には、名人戦挑戦者争いで単独トップを走るA級順位戦も関西将棋会館である。重要対局が大阪で続くが、その前に地元ファンに勝利を届けられたことは、自身にとっても“勢い”になったはずだ。朝日杯の準決勝、決勝はともに2月23日、東京・有楽町の朝日ホールで実施。藤井は準決勝で豊島将之九段(32)と対戦する。

 ≪過去に衝撃与えた逆転劇…藤井の「毒まんじゅう」も≫藤井の敗勢からの大逆転劇で有名なのは、19年3月27日の竜王戦ランキング戦4組・中田宏樹八段戦だ。絶体絶命の大ピンチで銀をタダの位置に引き、これを中田が取った瞬間に大どんでん返しで即詰みが実現。藤井の「毒まんじゅう」として棋界に衝撃を与えた。逆転ではないが、タイトル戦初登場となった20年6月8日の棋聖戦5番勝負第1局では、最終盤に渡辺明棋聖から16連続王手を浴びながら、正確無比に逃げ切って白星を挙げている。

 ≪NHK杯自身初8強≫藤井はNHK杯3回戦でも佐藤天彦九段(35)に中終盤苦しんだものの、最後は挟撃態勢を築いて勝利を飾り、自身初のベスト8入りを決めた。「序盤から激しい攻めが続き、分からない時間が長かった。互いに王が危険な形になり、どう指せばいいか分からなかった」と紙一重の内情を明かした。NHK杯はデビュー年だった17年度の16強が最高位と比較的苦手にしてきた棋戦だったが、初制覇にあと3勝と迫った。

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