【内田雅也の追球】「受け」の強さ生む準備

[ 2021年2月24日 08:00 ]

練習試合   阪神1ー4DeNA ※特別ルール ( 2021年2月23日    沖縄・宜野座 )

<練習試合 神・D>9回2死一、三塁、小幡(右)との連携プレーで重盗を阻止する原口。三走・中井(撮影・北條 貴史)
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 将棋の十五世名人、大山康晴は終盤での強じんな粘りが持ち味だった。米長邦雄は「終盤が二度ある」「二枚腰」「大山将棋の神髄は受けにある」と称している。

 その大山が解説を寄せた『「勝負強さ」の研究』(PHP文庫)は「勝負事研究家」のサラリーマン、折笠鉄矢が著した。初版発行は1981年7月と古いが、今にも通じる勝負哲学がある。

 大山は同書の解説で<各界の勝負師たちの共通項>として「努力家」「精神力」「執念」など精神面に加え「守備に強い」をあげている。自身の棋風のようでもある。

 本編では<柔道が受け身から始めるように、闘いの基本は受けにある>とある。<攻め将棋であった大山は兄弟子升田(幸三)の強じんな受けにさんざん泣かされた。それをバネに劣らぬ受け強さを身につけた>。

 さて、今年、優勝を目指し、勝負強さを目指す阪神にとって「受け」「守り」が重要なのは論をまたない。3年連続リーグ最多失策という「守り」の強化が課題である。

 ただし、単に「守り」と書いてしまうのは乱暴ではないか。もっと広く、深く「受け」としてみた場合、ある程度の成長が見られるのではないか。23日の練習試合DeNA戦(宜野座)でそんなことを思った。

 4回表に相手4番・佐野恵太に浴びた3ランはカウントを悪くしての棒球で分かりやすい失点だった。その後に見られたしのぎ、粘りといった「受け」はたたえていい。

 遊ゴロ失策や暴投もあった5回表は盗塁刺に三ゴロ美技でしのいだ。6回表は盗塁刺があった。7回表は馬場皐輔が球数を使って踏ん張った。9回表には一、三塁での重盗阻止があった。

 ミスがありながらも、その後を無失点で踏ん張る。誰かのミスを誰かがカバーする。失敗が多く、そして団体競技である野球にあって、最も目指す部分が見られた。

 何度も書いてきたが、大リーグ歴代3位の監督通算2728勝をあげたトニー・ラルーサが「がっくりくるのはベースボールには付き物だ。問題はその後だ」と語っている。76歳で昨年10月、ホワイトソックスで監督に就き、注目している。

 先の書によれば、大山は「受け将棋」の呼ばれるのを嫌い、「準備のいい将棋」と自称したそうだ。盗塁も重盗阻止も、美技も……練習を積み、心の準備もできていたのだろう。 =敬称略= (編集委員)

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2021年2月24日のニュース