帝京・前田監督、金足農の強さは“家族の絆” 快進撃に見た「高校野球の原点」

[ 2018年8月21日 10:00 ]

第100回全国高校野球選手権大会準決勝   金足農2―1日大三 ( 2018年8月20日    甲子園 )

11年夏、ベンチから戦況を見つめる帝京・前田監督
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 【名将かく語りき〜歴史を彩った勝負師たち〜】 春夏合わせて3度の日本一、歴代3位の甲子園通算51勝を挙げる帝京・前田三夫監督(69)が、準決勝の金足農―日大三を観戦。秋田勢103年ぶりに決勝進出した金足農の強さは“家族の絆”にあるとし、その快進撃に改めて「高校野球の原点」を見いだした。

 その「絆」には一つのほつれもなかった。苦しい展開となった終盤。1点差の9回は1死から守りのミスが内野安打となるなど一、二塁のピンチを招いた。普通ならガタガタッと来てもおかしくない。でも、金足農には「吉田を何としても助けよう」という結束力があった。そして吉田君にもそんな仲間に「応えよう」という思いが見えた。最後の力を振り絞って外野フライ2つでゲームセット。本当に見事な勝利だった。

 秋田大会から全試合完投の吉田君。実は今年6月、招待試合で対戦していた。好投手と聞いていたのでバットを振り込ませ、準備していったのだが5回無得点。終速が落ちない直球は打者の手元へ入り込む感じで、しかも重い。力に押されてファウルになり、追い込むとコーナーに決めて三振。その打ちづらいボールはこの日も健在だった。

 ただ、それだけではない。4回2死一、三塁。前の打席で二塁打されている高木君を1―2と追い込んでから、けん制を3球投げた。打者の気持ちを外しておいてクイックで外角へ143キロの直球。空振り三振に仕留めた。

 ピンチで慌てず、投げ急がない。走者がいても制球が甘くならないし、走者を塁に引きつけておく。日大三は盗塁ゼロ。隙が全くなかった。まさに大黒柱だ。でも、金足農はその大黒柱に頼り切りにならない。「吉田が頑張っている。俺たちが助けるんだ」。そんな思いに“家族の絆”を見た。父という大黒柱がいて、信頼する家族が支える。こういう「絆」があるチームは強い。

 帝京も「強い」と言われた年には、伊東昭光、芝草宇宙、三沢興一がいて、そして吉岡雄二がいた。大黒柱が頑張るから、周りの仲間が結束して伸びていく。初優勝した89年の夏。吉岡が必死に投げ、みんながそれに応えた。仙台育英との決勝。相手のエース・大越基君は、吉田君と同じような重く、伸びる直球を投げてきた。狙い球は選手たちに任せていたが、直球に押されて打てない。0―0の延長10回。チャンスで打席の鹿野浩司に変化球を狙わせたら直球2球で追い込まれてしまった。ベンチで「すまん」と手を合わせて謝った次の瞬間、直球をセンター前へ決勝2点打。「吉岡がこれだけ投げてる。何とかしてやろう」という思いが最後の最後に大越君の直球を打ち返した。今も忘れられない思い出だ。

 あの夏の吉岡や大越君のように、投げ続ける吉田君の負担を心配する声がある。でも、かつてはエースが一人で投げ抜いていた。そして強いチームには大黒柱を支える「絆」があった。昔に帰れと言うつもりはないし、複数投手制が悪いわけでもない。それでも、金足農は忘れかけていた「高校野球の原点」を思い出させてくれた。タイブレーク制が採用され、日程的に3連投もない。100回目の夏は、200回大会へ新たなスタートとなったのではないか。

 帝京が東北勢初の優勝を阻んだ夏から29年。金足農が悲願に王手をかけた。大阪桐蔭との決勝。自分たちの野球を貫き、好ゲームを期待したい。 (帝京監督)

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