なぜ実朝に嫡男が誕生しなかったのか「鎌倉殿の13人」「草燃える」の解釈「吾妻鏡」に残る“謎の発言”

[ 2022年12月2日 10:00 ]

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第39話。源実朝(柿澤勇人)は千世(加藤小夏)の手を取り…(C)NHK
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 俳優の小栗旬(39)が主演を務めるNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(日曜後8・00)は11月27日、第45回が放送され、ついに鎌倉最大のミステリーにして鎌倉最大の悲劇「実朝暗殺」が描かれた。建保7年(1219年)1月27日、雪が降り積もる“運命の夜”の鶴岡八幡宮大階段。安寧の世を目指した3代鎌倉殿・源実朝は志半ばの夭折。同じ時代を題材にした1979年の大河「草燃える」の実朝暗殺(総集編第5回)を振り返る。

 <※以下、ネタバレ有>

 「草燃える」は大河ドラマ17作目。歴史小説家・永井路子氏の小説や随筆を原作に、鎌倉幕府の源氏3代と北条政子の生涯を描いた。脚本は映画「祭りの準備」「あ、春」、ドラマ「失楽園」「牡丹と薔薇」などの中島丈博氏。大河脚本は「草燃える」「春の波涛」「炎立つ」「元禄繚乱」の4作を手掛けた。

 「和田合戦」の後、公暁(くぎょう、堀光昭)が5年ぶりに鎌倉に帰還。北条政子(岩下志麻)と涙の対面を果たした。そこへ入ってきた北条保子(真野響子)が、姉・政子が3代鎌倉殿・源実朝(篠田三郎)の後継者を京から迎えることを口にしてしまい、公暁も知ることに。

 公暁は自分は何のために鎌倉に戻ったのかと三浦義村(藤岡弘)に疑念を明かす。後継者の件は北条義時(松平健)の差し金に決まっているとした。

 鎌倉に波風が立たぬようにするためにと、義時は公暁を鶴岡八幡宮の別当に据えること、京から跡継ぎを迎えることを実朝に提案。2代鎌倉殿・源頼家(郷ひろみ)が討たれなければ…。政子の願いもあり、実朝は僧の道へ入らざるを得なかった公暁に報いる意味でも、八幡宮別当を了承。義村は義時を煙に巻けると、いったん受け入れるよう公暁に進言した。

 建保6年(1218年)の暮れ、公暁を中心に駒若丸(京本政樹)や若い僧たちが実朝の命を狙う密談をしていたことが義時の耳に入る。

 公暁は実朝の右大臣拝賀式で計画を実行すると義村に報告。義村は親の敵討ちは1人ですべきだと駒若丸を制し、敵を討った後なら三浦は挙兵すると公暁に告げ、成功を祈った。そして、北条こそ頼家を亡き者にした張本人だと、義時討ちも焚きつけた。

 承久元年(1219)1月27日、鎌倉は前夜からの雪に見舞われていたが、拝賀式は予定通り行われた。

 北条泰時(中島久之)は御所から鶴岡八幡宮に急行。父に急用があると、列の行進を止めた。振り返った太刀持ちは源仲章(小倉馨)。義時は急に体調不良となり、交代していた。泰時は拝賀式の取りやめを進言したが、実朝は門をくぐり、大階段を上っていく。その途中、潜んでいた公暁が現れ、実朝を刺し、義時も討ち取ったと高らかに宣言した。義村は今、北条と戦うのは賢明ではないと挙兵しない。義村の命を受けた長尾定景(小池雄介)が公暁を討った。

 「鎌倉殿の13人」と同じく、公暁を焚きつけたのは義村。駒若丸の存在感が大きい。実朝の妻・音羽(多岐川裕美)が実朝を引き留めればよかったと政子に語るなど、「草燃える」の展開も興味深い。

 実朝の後継者問題に端を発した暗殺事件。実朝に嫡男が誕生しなかったことについて、「鎌倉殿の13人」はセクシュアリティーの面から描写。第39回「穏やかな一日」(10月16日)、実朝(柿澤勇人)は千世(加藤小夏)に「私には、世継ぎをつくることができないのだ。あなたのせいではない。私はどうしても、そういう気持ちになれない」と告白した。

 「草燃える」の場合、実朝は義時に「私は子どもを作るのが恐ろしいのだ。源氏の一族は源氏の血を引いているというだけで、ことごとく争いの渦に巻き込まれ、この世から抹殺されていく」などと告白。自身の血筋に恐れを抱いていることが描かれた。

 「鎌倉殿の13人」の時代考証(3人)の一翼を担う東京大学史料編纂所助教の木下竜馬氏は「客観的事実として、実朝にあるのは(1)実子がいない(2)側室をもっていない(3)子孫は絶える、と自ら言っている。この3つしかありません。それ以外のことは証明しようがないんです」と解説。「鎌倉殿の13人」も「草燃える」も作品としての解釈になる。

 (3)は史書「吾妻鏡」の建保4年9月20日の記事に「(前略)諫言の趣旨はまことに感心したが、源氏の正統は自分の代で途絶える。子孫が継承することは決してないだろう。ならば、あくまでも官職を帯びて源氏の家名を挙げたい(後略)」(吉川弘文館「現代語訳 吾妻鏡」より)とある。

 実朝が近衛大将に昇進したことについて、大江広元が子孫繁栄を望むなら征夷大将軍として年齢を重ねてから近衛大将を兼ねるべき、と諌めたことに対しての返答だった。

 木下氏は「現世で官位を上げすぎると子孫に災いが及ぶ、と広元が進言したわけですが、実朝は『源氏の正統は自分の代で途絶える』と。謎の発言です。この心理はなかなか理解しにくく、解釈も分かれるところ。鎌倉時代末期の13世紀末から14世紀初頭に成立したとされる『吾妻鏡』の編者が“結果”を知っているから、逆算してこのエピソードをつくった可能性もありますよね」と指摘した。

 ◇木下 竜馬(きのした・りょうま)1987年、東京都生まれ。東京大学史料編纂所助教。専門は中世法制史、鎌倉幕府。共著に「鎌倉幕府と室町幕府―最新研究でわかった実像―」(光文社新書)など。

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