スティング 新作「ザ・ブリッジ」 古希の恋歌

[ 2021年11月27日 08:20 ]

スティングのアルバム「ザ・ブリッジ」のジャケット
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【牧 元一の孤人焦点】力強いドラム、弾むようなベース、ポリス時代から親しんできた歌声。1曲目「ラッシング・ウォーター」から心をつかまれる。

 スティング(70)のニューアルバム「ザ・ブリッジ」。事前に読んだニュースリリースには「世界的規模のパンデミックによる混乱に見舞われた1年間に書かれた曲を収録」と書かれていたが、コロナ禍のことなどすっかり忘れてしまうほど、伸び伸びとした音が聞こえる。

 2曲目「イフ・イッツ・ラヴ」でさらに引き込まれる。アップビートで、さわやかな印象の曲。声が高く、若々しい。♪それが恋なら、降参しなくては…と悩み多き恋心を歌っている。

 スティングは「恋をし、恋に破れながらも、恋につける薬がないと歌うソングライターは、決して僕が初めてではないし、最後でもない。『イフ・イッツ・ラヴ』は、僕がその仲間入りをした1曲であり、恋における比喩的な症状や診断、そして恋を前にした、どうにもならない無能力さは、弱々しくほほえまずにはいられないほど、誰にとっても身に覚えのあることだ」と話している。

 6曲目「フォー・ハー・ラヴ」も味わい深いラブソングだ。切ないギターの調べから始まり、「イフ・イッツ・ラヴ」とは打って変わって渋いボーカルを聴かせる。歌っているのは、彼女の愛を得るためならば何でもするという思い。それは宇宙空間にまで広がり、太陽、月、火星まで届く。なんとも壮大な歌詞だ。

 古希のミュージシャンが生んだラブソング。彼の後に続く世代としては、まだまだ立ち止まってはいけないと励まされる。

 「ザ・ブリッジ」は「ニューヨーク9番街57丁目」(2016年)以来、5年ぶりのオリジナルアルバム。スティングは収録曲に関して「これらの曲は、ある場所と別の場所、ある精神状態と別の精神状態、生と死、人と人の関係、そういったすべての『間』にあるものだ。このパンデミックと時代の間に挟まれ、政治的にも社会的にも心理的にも、僕らは、何かの真ん中で立ち往生している。架け橋が必要なんだ」と話している。

 個人的には、このアルバムは現在と1970年代末をつなぐ架け橋となった。この機会にポリスの曲を聴き直し、あの頃を思い出したからだ。「ロクサーヌ」から受けた、ロックとレゲエの融合の衝撃。ベース、ドラム、ギターの3人編成の格好良さ、ベースを弾きながら歌うスティングの素晴らしさ。そして、80年代の名曲「見つめていたい」。この曲を聴くと、若かった自分に引き戻される。

 あれからおよそ40年。時代は大きく移り変わったが、スティングが変わらずに力強く歌い続けていることがうれしい。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。

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2021年11月27日のニュース